「センセイ!今日の授業では僕が勝ちますので逃げないでくださいね!」
「俺は今日行けないよ」
「逃げるんですか!?」
「相棒が壊れちゃったの。ほら」
「何してるんですか!」
「モノマネ君ほんとに俺のこと好きね」
「違います~ッ」
と並んで歩く物間は触れようとしてはかわされを繰り返しながら授業に参加しない訳を聞いていた。
「ワイヤーと本体の一部が焦げちゃったんだよ」
「焦がした?まさか爆豪か轟にやられたんですか!?」
「惜しい。轟パパ」
迂闊な発言だった。
二人のやり取りが耳に入っていた相澤はの口からエンデヴァーの名前が出た途端傍聴者でいるのを止めた。
「立ち聞きは良くないなァヒーロー」
「……何をしに保須へ行った」
「無視かよ」
相澤の鋭い目付きにたじろぐ物間の背を軽く叩き「気にせず先行ってろ」と送り出した。わずかに目を彷徨わせた物間もに手を振られその場を去った。できるだけ逃げるような素振りは見られないようにして。
「生徒の前でそんな怖い顔していいのか?」
「質問に答えろ」
「俺が言って信じる?」
「」
「エンデヴァーに聞けよ」
静まり返る廊下は授業前であることを知らせている。の白いワイシャツがごそりと擦れる音すら聞こえる廊下で、互いを見合ったまま──けれどもどちらも目を合わせようとはせず──立ち尽くしている。
「とにかく、俺は悪いことはしてない。問題行動を起こしたのはお前の生徒らだろ。八つ当たりなら止めてくれ」
「本当だろうな」
「ほら信じない」
へらりと笑ってそれっきり。もう話はしないと言うかのように背中を向けて歩き出した。背後から静かに息を吐く声が聞こえる。
***
学校に来て良かったと思えることは数少ないが、そのうちの一つが自販機の安さだ。
「缶コーヒーもこれだけ種類があると逆に悩むな」
「私はこちらのメロンソーダでお願いします!」
「お願いしてる手前強く言えないけど、仮にも教師にタカるなんてお前大物になるよ」
「恐縮です!」
変わらない表情の発目は手渡された缶を勢いよく開け口の中へ人工甘味料の入った緑色の炭酸を流し込んでいく。それを苦々しい表情で見ていたも自分の手元にあるブラックコーヒーを口に含んだ。
「貴方のブラックコーヒーはキャラ立てですか?いかにも"らしい"ですもんね!」
「嫌味か素なのかわかりづらいなぁモノマネ君と違って」
「まぁどっちでもいいですけど!」
「君のそういうとこ長所だよね」
実際のは子供だって好まない子がいるくらいの甘いカフェオレだって飲むしブラックも飲む。ブラックコーヒーを飲むのは嫌なことがあったときが多いかもしれない。手元の缶をぼんやりと見つめながら先程の会話を思い返していた。
『本当だろうな』
『ほら信じない』
「………ま、とにかく頼むよ。俺の相棒の修理」
「勿論ですとも!なんならオプションで他の機能も付けられますよ!」
「ほんとぉ?じゃあよさげなのがあったらまた教えて」
「承知しました!その代わり、その時は宣伝宜しくお願い致します!」
目を爛々と瞬かせ自信に満ち溢れた顔の発目に対して、は少しだけ申し訳なさそうに眉を下げて微笑んだ。伸ばした左手が発目の頭をぽんと撫でる。
「ごめんな、広報活動は一切NGなの」
「ワケアリですか?」
「そ、ワケアリ」
それ以上はどちらも会話を続けようとはせず、発目は研究室に、はずるずると靴を引きずりながら宛行われたロッカーへ向かった。次の授業は自分の受け持つ実戦授業なのだ。ブラックコーヒーをもう一本買っておけばよかった。
「ハァ………『仮にも教師として立っている以上……』」
先日提出した反省文を思い出してため息と一緒に吐き出しても、の胸にすくう気持ちは流されてはいなかった。
「君」
「………」
「?君」
「………」
「あの、ごめんね?今話したい気分じゃなかったかな?その……」
「………ハァ……何ですかオールマイト」
「ため息……」
一瞬怯んだものの、持ち直したオールナイト、もとい、八木俊典が心配そうにを見下ろしている。
「君、いつもの武器を修理に出してるんだろう?しかもここの生徒にだってね」
「その確認のために声をかけてきたんですか?」
「いや。一年生とはいえヒーロー志望の学生相手に慣れない武器では厳しいだろうと思ってね。よければ授業を代わろうかと」
「ヴィランはヒーローが風呂に入ってても襲ってきますよ?予備パーツ使うくらいで代理は頼みません」
「だが」
「それに、どうしてもお話したいことがあるんでね」
の鋭い眼光を盗み見て、吐きそうになる息をぐっと堪えた。誰に何を言うのだろうか、問い詰めてもよかったのだろうが、それ以上は何も言わずロッカーを後にする。今のに何を言っても届かないだろう。廊下に出た八木は保健室の方へ向かっていった。
絶えないね心労
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