タイイクサイ。
日本語覚えたてのような発声で読み上げた週間行事予定表の一行。
教師陣はとうの昔から準備をしているというのに、この臨時教師は今知りましたとでも言いたげな様子だ。
「あなたにも審判をやってもらうわ。……と言いたいところだけど」
「そーそー。俺がメディアに晒されるのは学校側はまずいでしょ」
「ずいぶん他人事なのね」
「俺は誰に叩かれようと興味ないんで」
「……そう」
言いたいことはあるが、今それに踏み込む余裕はない。体育祭におけるの役割を告げると案の定「うげぇ」と言いながら書類にマーカーを引いていく。なんだかんだ昔から真面目な男だ。頼まれた仕事はきちんとこなすだろう。
***
教師陣からの信頼を裏切る程の度胸はないは体育祭当日、6時には出勤し警備に穴がないかと学園の敷地内を見回っていた。同じく準備をしている屋台の人間一人一人に声をかけるのも忘れない。
「何か悪いこと企んでたら僕も混ぜてくださいねー。」
「何言ってんだ兄ちゃん、俺は真っ当な商売しかしねェぜ」
「ざーんねん。じゃ、今日はよろしくお願いしますね」
大した事はないがやはり数が多い分疲れるようで、最後の屋台を回った後にケホ、と咳払いをした。
「」
「ん。心配すんなよ、別に変な事はしてない」
「そうは言ってないだろ」
「はは、じゃなきゃお前から声をかけてこないたろうに」
「……」
いまだ包帯だらけの顔ではよく何を考えているのか更に分かりづらいらしい。合わない目線に諦めながらかろうじて動く方の手をへ突き出す。
「俺に?」
「やる」
手渡された缶コーヒーは最近手に取ることもなくなった懐かしいブランドでついの頬が緩んだ。
「俺、好きなんだよなァこれ」
「知ってる」
「へー、覚えててくれてたんだ」
用は済んだとでも言うように踵を返し校舎へと戻っていく相澤の背中にありがとさん、と礼が聞こえた。
***
「アンタはまさか」
「ん?」
一般入場開始まであと一時間を切ろうとしている時、警備を任されたヒーローの一人がに声をかける。
「……」
ぼんやりとした表情こそ変わらないが言葉を発しないその態度に、横にいたMt.レディは僅かに警戒した。ここにいる以上敵ではないだろうが、少なくともデステゴロと親しい仲ではないらしい。
「人違いでなければアンタはデティ──」
「デステゴロ、言わないで。」
「───!?」
どれだけ待ってもデステゴロの口から続きは出てこない。どうしたのかと顔を覗きこんだが特に何かをされているようには見えなかった。その隙を逃さんとばかりにオーバーサイズの服を着た男は人混みの中へ姿を消す。
「誰なんですかぁ、あの人」
「言うなと言われたから言えないが、そう危険な奴ではないぞ、シンリンカムイ」
「……"個性"を使っていた」
「それはァ……というかよく気付いたな」
ふん、と鼻を鳴らすだけで何も言わなくなったルーキーに苦笑い一つしたデステゴロだけが警備への力の入れ具合を再確認した。
***
休憩に入っていいと言われたところで行く宛もないらしく、一般客からは見えにくい場所から決勝戦の様子を覗いているを見つけた解説席の二人は意表を突かれた思いでいた。
「あいつが他人の戦いに興味示すとはなぁ」
「……」
「やっぱりここに入れたのは良かったんじゃないか?」
「さぁな」
「あいつ、なんか言ってた?」
言っていたもなにも、まだ一度も会話らしい会話はしていないという事実に流石のプレゼントマイクも絶句した。カフを下げているから良かったものの、この時の二人の会話が外に漏れていたらと思うとゾッとしない。
「病室、お前があいつを俺の部屋に置いたのか」
「お?何のことだ」
「とぼけるな」
「マジで俺じゃねぇって!そんな権限ないっつーの!」
全力で首や手を左右に振る姿に嘘をついているとは思えず、包帯の下で小さくため息をついた。ならば一体誰が。複数人の候補者を浮かべている間に横に座る山田が話の続きを促した。
「今の流れで言うと病室で少しは話せたのか」
「……いや、俺が失言をしただけだ」
失言、その中身に言及しようとしたところで一年生の決勝戦が始まった。
***
「お誂え向きの"個性"に生まれて」
「望む場所へ行ける奴らにはよ!!」
「……………はぁぁ……」
手すりに肘を乗せ、は頭をもたける。それを見る相澤たちもまた息が詰まる思いだった。緑谷と相対する心操の試合は感情は、周囲が感じるよりもずっと重い。
特にに関しては、その後心操人使から目が離せなくなっていた。
「なぁ、少年」
「…………誰ですか、アンタ」
「普通科だから聞いてないか。俺は臨時任用教師だよ」
「…………」
心操が控え室に向かう途中、階段の影になっている部分から声をかけられ思わず反応してしまったが、聞こえないふりをして立ち去れば良かったと今なら思う。先程の試合で打ち付けた背中がじんじんと痛むのを感じながら、心操は声の主を見てやろうと暗闇に目を凝らした。
「その"個性"、ヒーローに向かなそうだよなァ」
「……それを、教師が言うんですか」
「だってさァ。人の意思に関係なく動かすことができるわけだろ。一歩間違えりゃすぐ叩かれる。薄氷を踏む思いで"個性"を使わなきゃいけない」
「そんなのどの"個性"でも同じことが言えますよ」
言えてる、という声は微かに笑っているようで、男の真意が読めず苛立ちばかりが募る。
「用がないなら俺はもう行きます」
「まぁそう怒らないでくれよ。ほら、握手しよう。」
「───!?」
無意識のうちに持ち上がる右腕をこれ以上あがらせまいと押さえつけるが、そのタイミングで伸ばしていた手を掴まれる。操られた?しかしそれを認知しているということはどうやら自分の“洗脳”とはまた別物らしい。
「きっとお前は環境に恵まれた。頑張れよ」
先程の発言からして意地の悪い顔をしているのだと思った。体温の低い男は何度か嬉しそうに小さく手を揺らしてから階段を上がっていった。ハッと我に返った心操が見たときには当然もう、そこには誰もいなかった。
常に踊らず見る阿呆
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