「おやおや先生!今日からA組なんですか!僕らが先生に片膝つかせる未来が見えて逃げてしまったんですかねぇ!?」
「おいおい物真似君。授業中俺に逃げられるからってこういうことで触ろうとするのはズルじゃねぇか?」
「も・の・まですッ!」
半歩どころか六歩くらい離れた後方でとB組の物間が話す声が嫌でも相澤の耳に入る。一週間と数日で随分親しくなったらしい。そう思うだけで相澤の胸は不快な思いで満たされ、ただでさえ怪我のせいで重い足取りは更に重くなる。しかし振り向く訳にも行かず、さっさとクラスに入ってしまおうと足を早めた。
「ほーれさっさと行けよ。来週にはまたそっちに行くからそれまでに精々鍛えとけよ物真似君」
「だ!か!ら!」
背後の男を急かすために教室のドアを開ける。つい力の入った腕はドアが開ききった反動によりギシリと痛んだが、なんでもないふりをして生徒達に声をかける。
担任のいつもより早い登場に少し間が開いたが、それでも生徒達は大きな声で挨拶をして、それを聞いたも渋々といった様子で教室へと入る。
「おはよう」
「おはようございまーす」
教壇にはあがったのは相澤一人で、は教卓の横に立ち、スラックスのポケットに手を突っ込んだまま口元に笑みを浮かべて言った。
の姿に生徒は顔をひきつらせる。なかでも爆豪はヴィランでも相手にしているかのような顔つきで男を睨んだ。
その要因については当然相澤にも連絡がいっている。
『ほらな、たった半日すら俺には任せられねぇだろ?』
ブラドキングから聞いた事の全容に頭を抱えていると後ろに立つ男がなんとも曖昧な笑みを浮かべそう言った。
『……最初はうまくいかないもんだ』
『お前それ、本気で言ってんの?』
あの時のひどく嫌悪感を全面に出して見下してきた顔は、今生徒に見せているへらりとした笑みからはやはり想像ができない。
あぁ、やはり自分は嫌われているか。
「それで?特に俺にできることがないならもう行ってもいいですかね」
「……あぁ、午前は座学だけだから勝手にしろ。お前の担当は午後からだ」
前を向いたまま目も合わせない相澤には特に気を悪くした様子も見せず、「はぁい」と伸びをして教室を出ようとした。
「待てよ」
声をかけたのは相澤が気にしていた人物、爆豪だ。
「気に食わねぇんだよ。そんな素性も知らねぇ無個性男が俺らに何を教えられるんだ」
「無個性って。お前らに見せてないだけだよ」
煽っているのだ。『個性を披露するほどお前達に実力はない』と。薄々隣のクラスからチート個性だのなんだのと噂を聞いていた分、が個性を使わないのはそういう事だと分かっている。
だからこそ爆豪はいとも容易く挑発にのり青筋を立て声をあらげた。
「ちげェ!テメェが個性使わねぇのが頼りなくてこっちが気を遣ってんだよッ!」
「んー?そんなに頼りないなら俺の個性体験してみる?……あ、いいかなイレイザーヘッド」
「やめとけ爆豪、こいつの個性ならそのうち見る機会がくる」
「あんたもあんただ。こいつがいると様子がおかしいし、この男に気でも使っとんのか」
「少年。」
「あァ?」
「あまり教師に対して失礼な態度はよくねェな。謝りなさい。ほら、頭を下げて。」
「…………!?」
「かっちゃん?」
緑谷が恐ろしいものでも見たかのように目を見開くのもわかる。そりゃあ先程まであんなに噛み付いてた人間が、言われた通りに頭を下げれば驚くだろう。クラスがざわつく。
しかし一番驚いているのは本人だ。何故自分が頭を垂れているのか、感覚的に分からない。体が無理やり動かされてるわけでもない。ただ言われたから、反射的に頭を下げた。
「俺が命令したら、どんな事でも従っちゃうんだよ」
「ハッ、ヴィランみてぇな個性だな」
───この発言は、地雷だったらしい。
教師の雰囲気がわずかに変わる。反応したのは当人ではなく相澤の方だが。
何かを言いたげに一歩前に出た相澤の肩をぽんと抑え先程と変わらぬテンションでが口を開いた。
「そうなんだよ!俺がヴィランになったら毎日消…イレイザーヘッドたちを胃痛に陥れ、新聞の一面を飾る大型ヴィランになっただろうさ!」
「……」
「まぁでも職業ヴィランなんて安定した収入はねェし?悪事働くほど世の中に嫌気が指してるわけでもないから消去法でこっち側やってるよ」
「……そうかよ」
爆豪も今の空気を察知したのか怒りを萎ませ席に戻る。
相澤を含め全員が黙りこむ教室で、
だけがへらりと笑った。
邪魔はしませんよう
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