「……」
がこのクラスの戸を引くのはこれが初めてだった。細かな傷が残る左手を戸口にかけたままそんな事を考える。
初日は窓から入った(らガラスを傷付けた事をしこたま叱られ)、それ以降はずっと1-Bにいた。ドア越しに聞こえる賑やかな声が腹立たしいのか歪に唇を持ち上げ呑気なもんだな、と呟いた。その声は幸い生徒に聞かれる事はなかったが。
「おはようございまーす」
「さん、相澤先生は?」
「意識はあったし、明日には来るよ」
ほっとした顔の娃吹に笑いかけ、また視線を教卓へ落とす。
「朝の先生から聞いてるだろうが、午後は実習だ。着替えた人から早い順に演習場に集合」
動揺を顕にする生徒を雑に諌め一番に教室を出た教師は左腕の機械をはめ直した。
***
「一番早かったのは尻尾とロック少女か。二人がペアな。次はぶどう君と複腕君か。三番目は───」
一瞬、の顔に影が走る。獲物を見つけたかのような鋭い眼光と引き下がる口角。唯一その変化に気付いたのは今しがたやって来た爆豪のみらしい。
「あァ゙?」
「三番目は、ツンツンヘアーコンビな」
そうしてクラス全員を二人ずつペアにして演習内容を説明する。
内容はよくある対ヴィラン戦闘だ。ヴィランに扮したにペイントボールをぶつけるか制限時間まで逃げ回るか。
「ちなみに俺は個性を使わないが、自分の命の危険を感じたら自衛はするから、お前らは容赦なく個性使ってきていいぞ」
ずり落ちるシャツを肩に戻したのはこれで4度目だ。
背丈にあった服を着ないのは個性を使ううえで不便のないようにだろうか。だとしたら個性は巨大化や翼など身体変化を伴うものの可能性が高いが左手につけたワイヤーを見ると飛行系ではないかもしれないぶつぶつぶつ……
すっかり見慣れた緑谷の考察を聞いて呆れる者や自身の考えと擦り合わせる者など様々だ。思い思いに動く生徒をまとめるでもなく「5分後に始めるぞ」と言っては一足先にビルへと入る。生徒は見学すべくモニター室へ移動した。
「…………で、何が起きた?」
「正直言うと、モニターからは何も分からなかった」
「開始3分くらいまでは耳郎たちのが有利そうだったのにな」
散々な言われようだが、当の二人は何も言い返せず口をつぐみ悔しげな表情を浮かべた。
「ケロ、ペイントボールをぶつけるだけなら近付くリスクがない分有利だと思ったのだけれど」
「むしろあれだけ俊敏に動かれちゃ当てられねぇよな」
索敵能力は耳郎達が上回り、常に相手の動きを探知しつつ、自分たちの縄張りへと引き込んだ。尾白とのコンビネーションも上手く決まり、あとはボールをぶつけるだけというところまでいったのだが。
「気付いたら気を失ってた……うちらより傍から見てた皆のが分かるでしょ」
「と言ってもなぁ、あのワイヤーで瞬時に移動して攻撃してただけで個性使った様子はなかったぞ」
ワイヤーを張り、その先へ引っ張られるように移動するため射線上に入らないようにする。
そう作戦付けて挑んだ二組目の峰田達も6分経たず沈められた。
「絶対個性使ってるだろ!!」
「いや、空気の震える音は至って普通だった。相澤先生の捕縛布と同様、ただの道具を使った攻撃だ」
肉眼では追えないと判断した障子は複製腕を耳と目に絞り姿を捉えようと試みた。しかし結果としては増やした目に砂かけを食らい動けない時間が増しただけだ。その間なんとか機能する耳を駆使して動きを察知していなければもっと早い脱落になっていただろう。
「行くぞ」
「行くって爆豪、ある程度作戦くらい決めて行こうぜ!」
「ねェよんなもん!ボールは投げるよか────」
「自分の手にぶつけた方がいい」
ぽつりと呟いた緑谷の言葉が運悪く爆豪のそれと重なった。
冷や汗をかく緑谷と血管を浮かべる爆豪以外は皆緑谷の言葉の続きを待って黙っている。ひたすら気まずい沈黙を破るべく切島は爆豪の腕を引っ張り部屋を出た。
「それで!何で自分の手に、なんだい!?」
二人が退出したタイミングで飯田が答えを求めた。少しどもりながらも緑谷は自身の推測を口にする。
「えっと、まだ二組しか見てないから確信は持てないんだけど、先生は『自衛以外では個性を使わない』と言った。銃のような物は持ってないし、なら物理的に遠距離から僕らを沈めることはできない」
逃げるにしろ対敵するにしろ、個性を使ってこないのなら近付かなければいい話。最も、あのワイヤー捌きを前にそんな悠長なことは言ってられないのだから、もしもの時のためにも
「一番は近付かないことだけど、いざというときは遠くて早い相手にボールを投げるより接近戦の時に備えて自分の手から塗ってしまえばいい」
緑谷と同じ作戦を立て、満を持して挑んだ爆豪達は、意外にも他の二組とは異なり、8分、時間いっぱいなぶられる形で敗北した。
生徒らとの接触
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