「……おや、何で俺まで病室にいるんだ?」

それもあろうことか片手片足をベッドに拘束されている状態だ。いわれのない身体拘束に抗議の声をあげようとしたところで隣から聞こえる複数の機械音に気付く。

「……………………消太」

思わず呼んだ名前に返事はない。静かな部屋でただ酸素マスクが音をたてるだけだ。

「なんだ……生きてたのかこいつ……」

一定のリズムで高い音をたてる心電図にの興奮も落ち着いたらしく、動く範囲で体を起き上がらせ周囲を確認した。ここは普通の病院の個室で、簡易ベッドに乗せられこの部屋に運ばれている。
冷静になった頭で客観的に状況を整理しようと試みるもヒントがない現状で答えはでないと結論付け手元に置かれていたナースコールを押した。
何度押してもビーともブーとも言わないそれに連打しようと構えたところで病室のドアがパンと開く。

「シャラァアプ!!ウルセェ!!!」
「お前こそうるせぇわ!!!」

入ってきたのは言わずと知れた同期の山田ひざし一人だった。曰く、がナースコールだと思っていたものはただのポケベル。

「まだポケベルなんて売ってたんだなぁ」
「ヘーイ話を聞けよ」

の頭を何度もつつきながら、山田は今回のUSJ襲撃についてわかる範囲での現状を報告する。

「───というわけだ。教師二人以外は入院するほどの怪我はない」
「俺いれたら教師三人の入院じゃねぇか。つーかなんで俺だけこんな目にあってんだよ」
「分かってんだろ?」

サングラスの向こうにある大きな目が諌めるように向けられは肩をすくませる。

「31時間も寝てたんだ。かなりの疲労が脳に溜まってる。あの時、“個性”を何に使った?」
「さぁ。そんなに使った覚えはねぇよ」
「俺ぁお前を気遣って『あの時』の事を聞いてんだ。雄英に来る前の事も言及されてぇの?」
「……」

ちなみに一人重度の火傷を負ったヴィランを見つけたが、と付け足された言葉には白々しくため息をついた。それが肯定を意味していることはお互い了承した上で。

「お前がイレイザーの話を聞いて頭に血がのぼったのはわかるが」
「違う」
「おいおい」
「ムカつくだろ、普通に、ヴィランが侵入したんだぜ、よりにもよって雄英にさ」

多少言葉が拙くなったがそこには何も触れられなかった。お互い口を閉ざし沈黙と機械音だけが耳をつく。

「意地っ張り」
「はぁぁん??」
「昔の喧嘩をいつまで引き摺ってんだよ」
「引き摺ってないし、喧嘩なんかしてねぇ」

山田に向けていた顔を反対側に背けたが、今度は相澤に目が行ってまた首を動かす。結局は規則正しく並んだ白い天井を見つめることに落ち着いた。

「引き摺っていたら、こうして話しちゃいない。俺はここに来ちゃいない」
「ふぅん。で、結局何が原因で仲違いしたんだ?」
「相澤に聞けよ」
「同じ事をそいつに言われたんだよ」

なんだかんだ仲良しだなぁとおちゃらけたのは少しずつ重くなる空気を吹き飛ばしたかったから。も再び山田の方に体を向けふふ、と笑う。

「それ、あいつが聞けばかなり嫌がるだろうな」
「……どうだか」
「なァ、さっさとこれ解放してくれよ」
「あぁ。その代わり一つ条件がある」
「嫌な予感がする」
「今日1日、お前が1-Aの担任やれ」

ほらみろ、の嫌な予感と言うのは9割7分当たるのだ。 露骨に嫌な顔をするが山田は見て見ぬふりをした。

「できるかよ。教免持ってねぇ」
「午前は他の空いた教師が入る。午後は全部実習に変えるからそれを受け持ってほしい」
「そんだけ融通きかせてまで何故俺が入らにゃならんのだ」
「そうでないとイレイザーが教鞭に立つぜ!」

おいおいいまだベッドで寝てんだぞご冗談を、と笑い、山田も笑った。まぁ冗談じゃないんだけどね、と返されてしまえばもう笑えなかった。

「今はミッドナイトの香で眠っちゃいるが、昨晩はもう退院するとか言って聞かなかったんだぜ」
「さ、さすが雄英教師……」

当然医者もリカバリーガールも反対したらしい。しかし教師が不足しているのも事実で、教師の身体か生徒の教育かどちらか選べと言われればおのずと答えは決まっている。とはいえ後遺症が残るレベルの怪我人だ。じゃあよろしく、とも言い出せないだろう。

「……でも、やっぱ俺は無理だ。こいつのクラスだろう。“俺”は教育に携わる立場にいないから、退院したこいつが苦労するだけだぜ」
「…………」

そのあとは二言三言他愛ない会話をして、「朝の4時過ぎに起こされたから二度寝する」と出ていく山田を見送った。鍵は枕の下に置かれていたというオチに一人でしきりに笑った後、カシャリと軽い音を立てて鍵を外す。なるべく音を立てないように支度をして病室を出ようとしたとき

「……
「!……起こしたか」
「半日、A組を任せられるか」
「盗み聞きかよ、ヒーローのくせに」

酸素マスクのせいで多少聞き取りづらいが、きちんと言葉を発する姿を見ては深く息を吐く。相澤にそれを悟られないよう気を配っていたが。

「俺が行くと言ったんだが、ばあさん達が煩くてな」
「起きようとするな。医者が安静にしてろと言ったんだろ」
「問題ない」
「周りが気を遣うって言ってんだよ」

身体中に巻かれた包帯のせいでどこに触れていいのか分からないのか、仕方なく相澤の肩の辺りに手を置いて、ゆっくりと力を込める。一瞬ビクリと肩を揺らした相澤もの意思を察して仕方がないといった様子でベッドに横たわる。本当に、ただの怪我人だ。それも重傷の。

「この半日でお前のクラスがどうなっても知らねぇぞ」
「問題ない。たったの半日だ」
「…………それもそうだな」

相澤の眉間にの冷たい指の腹が置かれる。嫌でもを意識してしまう、これがいけない事だと、今すぐ抹消しなければと思い目を開けるが包帯のせいでうまく姿が認識できない。

「眠れ。」
「ちが、う…………」

「頭痛ェ……クソ、どんだけ学校行く気満々だよ」





病室を去っていくに聞こえただろうか。

『問題ない。たったの半日だ』

違う。またしても言葉を間違えたんだ。
何日だって授業を任せられる。昔からお前は、ずっと正しいヒーローだった。

「ちが、う……」


聞こえただろうか。
気まずい病室
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