貴方と食べたい

イレブンジス (夢主への何故)


一度昼を共にしてから、カタクリから声をかけられる頻度が増えた。を気遣ってか周囲に人がいない時のみとはいえ、二日に一度は声をかけられるのだから、よくもまぁ小柄な自分を見つけるものだと感心してしまう。


「はい、カタクリ様」
「お前はまだ菓子作りをしているのか」
「あらあら」

答えになっていない感嘆の声をあげたせいか、カタクリはただでさえ険しい顔を更に険しくして遥か上から見下している。
三下海賊なら失禁ものだろうが、幼い頃から見続けたからしたら「その癖は変わらないんだな」とむしろ微笑ましくなるものだ。

「いえ。まさか、覚えているとは思っていませんでしたから」
「用件は明確に言え」
「はいはい。色々聞きたいことがあるから声をかけていたんでしょう?」
「……」
「折角だから、また昔みたいに食べに来てくださいよ。私の作ったメリエンダ」
「……少しは、マシなものになったんだろうな」

はいともいいえとも答えず、見慣れた胡散臭い笑みを浮かべる口は弧を描いた。


   ***

「はいどうぞ」

マカロンです、と差し出されたそれはどちらかと言えばラング・ド・シャだ。平たい生地の隙間からホワイトチョコが溢れかけた状態で冷え固まっている。

「前よりは形になってるでしょう?」
「どうだか」

この哀れなアーモンドパウダーと砂糖の混ぜ物を見ても然程驚かない辺り、以前にも見たのだろうが思い返そうにもどういうわけか記憶は断片的で、靄がかかったように不透明だった。

「思い出せなくて当然です」

心を見透かしたように口を開く。
失礼、と向かいの席に腰かけたは臆することなく『マカロン』を口に運ぶ。

「それが私の“能力”ですから」
「悪魔の実か」
「メレンゲは、かき混ぜれば形を変えます。元の形がなくなり忘れられるように、私の作った分身も、記憶共々なくなっていくのです」

片手で摘ままれた菓子をひょいと口に放り込む。やはり見た目ほど味は悪くない。自画自賛しつつ左手からどろりとした半固形状の“メレンゲ”を出し説明を続ける。

「これを見てください」

最初は鳥。羽ばたいたあとはペガサスを経由し馬の姿になる。ギャロップで走る馬はみるみるうちに鯨へと姿を変え、最後は蛇になり姿を消した。

「さて、二番目の姿は何だったでしょう」
「………!」
「むしろ、何なら覚えてますか?」
「魚類、と……蛇だった」
「だから嬉しいんです」

私のことを覚えていてくれて。
心底幸せそうに笑う顔が見ていられなくて、緩めたマフラーの隙間から菓子を口に運ぶ。サクリと軽い音をたてたマカロンもどきは、確かに味は悪くなかった。

「なら、当時と変わらない姿をしているお前も本体ではないんだな」
「…………痛いとこついてくるなぁ」

肩を竦めて困り笑いを浮かべれるそれが答えなのか、何か訳有りといった様子の男に言葉を促す。その目を受けた彼は最初から話をするつもりだったのだろう。
慣れた手つきでテーブルの上に親指サイズの人形をいくつか作って並べた。

「私が作る兵隊は痛みも感じず、捕らえられたら破壊してしまえば捕虜にもならない。更に記憶にすら残らないというのだから便利なものでしょう」

1列に並べられた5つの人形を右端から1つずつ破壊していく。親指で潰し、二つに割り、握りつぶし、4つめに手をかけようとして指の動きが止まる。

「ビッグマムは喜んで誉めてくれたけど、私は少しも嬉しくはなかった。自分のしている事が悪行だと分かって胸が痛んだから」
「ママが……?あの人の口からお前の名が出たことはないぞ」
「だから、言ったでしょう?」

パキン、と乾いた音を立てて4つめの人形が二つに割れて砂のように細かくなり、の指先へと戻っていく。

「私が何個の人形を壊したか当てられますか?」
「…………“ビッグ・マム”を持ってしてもお前の能力は適用されるのか」
「何も戦って勝とうという訳じゃないんです。壊した相手を忘れるなんてこと、別に能力を使うまでもないでしょう」

だからこのまま逃げられると思っていた。恐ろしい化け物の元を去り、自分の能力を人のために使おうと決め船まで用意したのに、あの魔女はそう易々と手駒を逃すわけもなかった。

「殺してしまうには惜しいが自由にさせておくわけにはいかない。結局ペロスペロー……様の能力で本体はどこかに閉じ込められた。今は、こっそり開けておいた小指サイズの穴を伝ってこうして分身を外へ送っているわけです」
「なら本体はどこにいる」
「さぁ。このホールケーキアイランドのどこかにあるのは確かですが、何年探しても見つからないところを見ると、もしかしたら城の中にあるのかもしれません」
「それで城内の給仕か」

ティーカップの中身が空になっているのに気付いてまだ湯気が立ち上るポットを傾ける。その動き一つ一つを観察するように眺めるカタクリにまた一つ笑みを向けた。

「でも今は体なんて別にいいかなって思ってます」

お得意の見聞色の覇気で言わんとしていることを察したのか、カタクリは居心地悪そうに顔を背けをくすりと笑わせた。

「貴方という話し相手がいてくれるのなら、このままでもじゅーぶん」


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