貴方と食べたい

キャラメル (一緒にいると安心できる)


特に用もなければ食事は一人で済ませるというのはもはや家族に周知の事実であり、この日も一人の給仕がカタクリの部屋まで食事を運びにやってきた。

「……、…………待て」

僅かに息を飲んで制止の命令を下した先、カートを引いていた男はカタクリの指示に従いその足を止めた。

「俺は、お前にある質問をする。するとお前は俺の望む答えを口にするんだ」
「…………」
「お前、メレンゲだな」
「……ふふ、やっと気付きましたか。カタクリ様」

食事を並べ終え、調理用帽子を脱いだ男はどういうわけか昔見上げていた時の、余裕を崩さない笑みを浮かべてカタクリを見上げている。陶器のような肌も澄んだ瞳を囲う目元も、あの時見たままだった。

「説明しろ」
「随分『クールにして完璧な男』が板についていますね。あの頃とは大違いだ」
「……“メレンゲ”」

鋭い眼光は釈明を求めるが、男はどこ吹く風というようにただ思ったことを口にするだけだった。

「体の半分以上が吹き飛んだので、修復するのに時間がかかってしまいまして」

あぁ、俺に構わずお食事をどうぞ、などと言われても10年以上一人で食事をとり続けてきたカタクリにとって人前でマフラーを取ることすら躊躇われるというのに。

「どうしました?昔は人さえいなけりゃ普通に食べてたじゃないですか」
「あぁ、人さえいなければ、外す」
「…………そうか、俺がいるからか」

他に理由などあるだろうか。この間聞いた時、来月で一年になると言っていたはずだ。それだけ長く部屋遣えをしていればカタクリが食事中誰も部屋にいれないことなど常識のはずだろう。

「……昔『お前はいいんだ』って言ってくれたからつい」

さっさと出ていけ、と言いかけた口からは言葉はなく空気だけが漏れた。

「……記憶にない」
「そうですよね、カタクリ様にとってはもうずっと前のことだから」

駄々をこねる子供をあやすような笑みを浮かべられてつい居心地が悪くなる。さっさと外へやってしまおうと手で払ってようやく男を追い出すことに成功したが、心が晴れやかになることはなかった。

「……なんなんだ」

一人の食事には、慣れた、とも思わない程当たり前になっていたはずなのに、何故か自分と食事しかないこの空間がやけに殺風景に思えた。


   ***

「いやー。てっきりこの間の無礼を理由に殺されるのかと思ったら」
「白々しい演技はいい」

座れ、と促したのはカタクリの自室で異様な違和感を発揮する一脚の椅子。カタクリの背丈に合わせた家具に囲まれては給仕の背丈ほどある大きな椅子もまるでおもちゃのようにかわいく見える。

「えぇ、お誘いは光栄ですがまずはカタクリ様のお食事の支度をしませんと」
「お前は『あれ』と言う。だから俺は座れと言ったんだ」
「この間も言ってましたけど、何ですかそれ。会話する気ありま──あれ」

カートの上の食卓カバーを持ち上げたはカタクリの予知通りの驚嘆の声を洩らす。何故か二人分の食事が乗せられていたからだ。

「……なるほど」

諸々を察したが二人分の食事を机に並べて用意されていた椅子に着席するまでの間、カタクリは腕を組んだまま目をつむりマフラーに顔を埋めている。一見クールなお兄ちゃんに見えるが、子供の時から感情が高ぶったのを抑えるときにやっていたポーズだと知っているは笑いを堪えるのに苦労した。

「お待たせしました」
「あぁ」

一介の給仕が四将星の一人と食事を共にするなんてとんでもない話だが、カートに二人分の食事が乗っているのを見たところ、向かいの大男が自らシェフに指示したのだろう。そう思うとえも言われぬ幸福感に満たされ頬も緩むのだが、正面に座りゆっくりとマフラーを外した男は、眉間に皺を寄せ警戒するような低い声を出す。

「……何がおかしい」

その言葉には目を丸くするが、カタクリにしてみれば神経を逆撫でられるのも当然だった。
口を晒せば、弱点を見つけたとばかりに嘲り、侮辱し、攻撃してくるのだ。歳の近い兄弟ですら『口元を隠せば』と言うのだからよほど醜いものなのだろう。知っている。自覚している。だからこそ目の前の男が慈しむような笑みを浮かべていることが要領得ないのだ。

「カタクリ様と一緒に何かを食べるのはこれが初めてでしょう?」

なんだか嬉しくって、と笑う顔に嘘や言い訳は見当たらない。断片的な記憶を辿ると、確かにカタクリがの作る残念な菓子を口にすることはあっても、の食事姿はおろか、椅子に腰かける姿も記憶にない。給仕としての弁えた態度らしい。

「でも二度ばかりカタクリ様の横に座ったことはあります」
「そうなのか」
「はい。訓練とメリエンダの時間を終えたカタクリ様が私の部屋で船を漕いでいた時は急に倒れないよう横で支えをしていました」
「……記憶にない」
「えぇ、私だけ覚えていればいいのです」

弱味でしかないからと封じ込めたはずの情けない自分が、いまだこの男の中には色濃く息づいているというのか。誰にも見せずに一人で閉じ込めていたはずの、『最強』でない『兄』の姿が。

「そうだな。お前だけが覚えていればいい」

不要だと切り捨てたものを丁寧に拾って大事にしている変わり者がいるのなら、兄弟のためにいくらだって自分を捨てようと、己を失ったりはしないのだろうから。


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