貴方と食べたい

ティラミス (私を励まして)


一番槍として敵船へ乗り込み、後続への道を作りながらの襲撃っぷりは高く評価された。しかし、戦も終盤に差し掛かった頃に突然動きを止めたカタクリを襲われないようペロスペローが尽力していることにも気付かず誰かに向かって呼び掛けるばかりだった。


「……何があったか知らねぇが、窮鼠猫を噛むということを忘れるなよ」

敗北を目の前にした敵はどんな手にでるかわからないのだと、二つ年上の兄が縄張りへ帰還する途中に助言するが、今更言われなくても身を持って知ったところだ。

「…………」


『隙だらけですね』


何度も聞かされた言葉を反芻する。大切な妹であるブリュレの顔に消えない傷を作ってしまった時に、もう二度と隙は見せないと誓ったのに。


『私は“どちらの”貴方も大好きですよ』


あんな甘いことを言って揺るがした、あの男が悪い。死んだのだって、自業自得だ。

「……」

あくまでカタクリを庇ってのことだったはずなのに、あれは最期まで恨み言の一つも吐かずカタクリを気遣うような事を言っていた。なんと甘いことだろう。
ただの給仕が死んだだけ。当然涙など流すこともないが、船内に宛がわれた自室で一人きりになった途端、ひどく体が重くなり、かくしてベッドへと沈んでいった。







「カタクリ様」
「───……」

壁にもたれ掛かって身体を休めていた。瞬時に覇気で周囲を確認する。いつもと変わらない城内の様子、ママの機嫌、兄弟たちのコンディション。
いつもと変わらないのに、人の気配で目を覚ませなかったのは何故か。

「ぼんやりされていますが、体調が優れませんか?」
「……いや」

随分と懐かしい記憶を夢に見ていた。あの日の事は自分への戒めとしてついぞ忘れたことはないが、何故このタイミングでまたあの男のことを思い出すのか。

「二十歳のお誕生日おめでとうございます。既にオーブン様とダイフク様はパーティ会場へ向かわれましたが、カタクリ様は如何なさいますか?」

時刻は既に招待状にかかれた時間を回っているのだから、『如何なさいますか』なんて言葉も『まだ行かないのか』という言葉に相違ないだろう。
慇懃無礼な男は白いスーツにパッションピンクなんて締まらない色のチーフをポケットに忍ばせて、涼しい目のままその横顔を晒している。

「…………」
「どうかされましたか?」
「………お前、いつから俺の部屋の給仕になった」
「来月で一年を迎えます」

部屋の入り口にいる男からカタクリまではかなりの距離があるのにそれでも首を下に向けなければ視界に入らない小さな給仕はカタクリの問いに少しも動揺を見せずはっきりとした声で答えた。物怖じしない態度が何故か好ましく思えてつい目が逸らせないでいた。

「どうか致しましたか?」
「……、あと5分もせず会場へ行く。そう伝えろ」
「わかりました」

端正な横顔はそのまま小さく会釈をし扉の影へ消えた。

「…………ふん」

あんな夢を見たからだ。
今の給仕にふと“メレンゲ”の面影を見た気がして動揺した。死んだ人間が甦ることなどあり得ないのに。


『“一度”、死にますね……』


あの妙に引っ掛かる言葉を残したばかりに。
既に顔がうまく思い出せない男に悪態をついて、カタクリも会場へ向かった。
会場は美味しいスイーツに溢れかえっているのだろう。綺麗な曲線を描いたマカロンや細かいアイシングで彩られたクッキー、簡単にフォークで切れるパイなど、どれもあの男が最期まで作れなかった上等なものが。


『結局料理は上達したかったなぁ……』


全く忌々しい。執念深くも記憶に染みついたあと男も、女々しくもいまだ忘れられないでいる自分も。

家族総出で祝われる最後の誕生日会は終始物足りなさを感じていた。


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