貴方と食べたい

マシュマロ (貴方が嫌い)



「お前またざつようぜんぱんしてるのか」
「カタクリ……でしたっけ、名前」

確認とは言えあっさりと名前を呼び捨てにされムッと眉を寄せるが、睨まれた方は気付いていないのか返事をただ待っていた。

「……そうだ」
「良かった。名前を間違えたら偉いことになる」

そう言う男の手はカチャカチャ落ち着きなく動いている。カタクリが少し背伸びをしてシンクの方からキッチンカウンターを覗くと、何やら鼻をくすぐる甘い匂いがした。

「なんだこれ」
「何って、ご覧の通りマカロンですよ」
「これがか?」
「………」

歯に衣着せぬ言い方にも反論はできない。確かに匂いこそ甘く香ばしいものの、焼いた生地はクッキーのように薄くて固いし、何より形が歪すぎる。絞り袋から誤って溢してしまったかのような形のクッキーにいまだ固まらずでろでろな状態のチョコレートがなんとか乗っかった状態だ。

「まさかとは思うが、これをママに出す訳じゃねぇよなぁ?」
「……当然でしょう。私は調理時に台所に立つのは禁止されていますから」

本人もこの悲惨さは自覚しているのだろう。はぁ、だのふぅ、だのため息をついてマカロン……のようなものを容器にしまった。

「それどうすんだ?」
「人様に出せませんから、私一人で消費しますよ。捨てるわけにもいきませんし」
「ふーん」
「というか、何故貴方がここに?渡されたスケジュールにはこの時間は戦闘訓練の時間だと」
「あんな手応えねぇのすぐ終わるぜ」
「あぁちょっと……!」

風に吹かれた柳のような男が、珍しく焦った声を出したのはカタクリが容器に手を入れ中のものを食べてしまったからだ。口直しにと冷蔵庫に入っていた作りおきのお茶を差し出す間も大きな口はもぐもぐと動き続けている。

「………」
「まぁ、食えない味じゃあない」
「えっ本当、ですか?」
「はぁ?お前なんかに嘘つくかよ」
「確かに、人を気遣うような人ではありませんしね」

しれっとでた失言に気の短いカタクリがうるせぇと怒鳴って腕を伸ばす。

「……!?」

悪魔の実の能力を前に驚いて腰を抜かすだろうと疎んじていたからこそ、ゆらりとかわされたあげく餅になった腕を捕まれて驚いた。

「は……放せ!」
「食べ物のある場所でそういった事をするのは頂けない」
「放せって!」
「返事は?」

殴りかかった時の風で整えた前髪が乱れ目にかかっているせいで、顔に延びる影が余計に“圧”を与えた。
身じろいで「あぁ」と声を発するとまたいつもと同じ作ったような笑みを浮かべ「よろしい」と手が離される。

「危うく紅茶が溢れるところでした」
「……」
「もう片付けますね。後からお腹壊したなんて言われたら私はビッグマムに殺される」
「……お前、名前は」
「ん?」
「だから、お前の名前だよ」

繰り返された問いに僅かに目を見開いて、手を止める。カタクリがその不自然さに気づく前にまた笑みを作って

「“メレンゲ”です」

と言った。

「そうか」

一瞬感じた違和感を気のせいだったと思わせるような普段通りの様子に、まぁいいやと己を納得させ、彼の足に軽く拳をぶつける。

「おいメレンゲ、俺と契約しろ!」
「はい?」
「俺はお前のゲテモノ菓子を食ってやる。だからお前は俺の手合わせに付き合え!」
「ゲテモノって……」

そんなことはない、と否定してやりたかったが、確かに容器に詰められた菓子の見た目はハロウィーン用としてなら辛うじて、と言ったものだったため口をつぐんだ。

「そもそも私が貴方の手合わせ相手になりますかね」
「さらっと避けといてよく言うぜ!」

あまり自信はないが、本人がいいと言うのならこれは“メレンゲ”にとってもいい取引だ。作るだけ作って消費が間に合わなかった菓子が消えるし、どこまで相手になれるかはさておき運動不足の解消にはなるだろう。

「……分かりました。では明日からということで」


その言葉を聞いたカタクリがなんとも満足げに笑うのだから、あぁ仕事が増える。なんて心のなかで嘆いていた男もつられて笑みを浮かべてしまうのだ。


<<  >>

Back