「………っ、」

カツカツと靴音が遠くなっていくのに、いまだに喉は震えるばかりで言葉にならない。あの頃よりも更に大きな正義の文字を背負ったはあの頃とは違う威厳があって、任務に出る前に見たあの笑顔を必死に思い出していた。

(ああ、待ってくれよ。)

昔はロシナンテがその背中に何か言おうとすれば、何故分かるのか、止まって、振り向いて、ロシナンテが言いだすのをずっと待っててくれたのに。

さん、悪い、つい──」
「いや、俺の方こそ大人げなかったな。……どっちみちその怪我じゃあまり歩き回れないだろ。おとなしく回復を待てよ」
「……分かった」
「あんまり俺の部下を困らせてくれるなよ?」
「………」

部屋のドアを開け、扉の向こうで見張りをしていた部下の肩に手を置いてこちらに笑いかける。あの人の笑顔が大好きなはずなのに、こんなにも不快な気持ちになるのは何故なのか。分かった、と、返事はできただろうか。


「失礼します」

翌朝、案の定寝付けなかったロシナンテは朝食を運んできた海兵の声で目を覚ます。ローはというともうとっくに支度を済ませており、ロシナンテに変わり海兵と共に朝食の準備をしていた。

「おや、ロシナンテ中佐、失礼した」
「……いえ、こちらこそ見苦しい姿を見せて申し訳ありません」
「お気になさらず。准将が寝てるだろうからと言っていたので、いつもより遅めに持ってきて良かった」

カラリと笑う顔はさわやかという言葉がよく合っていて、そこに嫌味の影も見当たらないのにの名前を出されると何故か怒りがわいてくる。当然、態度に出すわけにはいかないが。

「……そこ、置いておいてくれればあとはこっちでやりますのでっ!?」
「おっと……足の骨はまだ完治してません。無理しないでください」
「…………あ、あぁ」

あぁ、さんと同じ煙草の匂い。

「もう、一人で立てます」

何でこんなに、こんなに感情が乱されるんだ。



「ロー。ここを出ようか」
「どうしたんだよいきなり」
「もう二カ月もここにいたんだ。お前をここに閉じ込めておきたくない」
「まぁそうだけど、いいのか?ナントカ准将とやらの許可、まだ下りてないだろ」
「………いいんだよ」

何か言いたげなローも、外に出たいという誘惑には勝てない。そろそろこの部屋の本も読み尽くしてしまうところだったのだ。

「今夜、こっそり窓からでよう。縄ならおれがずっと隠れて編んでおいたんだ!」
「いつの間に……」

ヘラリと笑いあって、二人は夜が更けるのを待った。黒羽を指した海兵が夕飯を片付けに来て、就寝の挨拶をする。二カ月もおとなしくしていたのだ。無自覚にも海兵の監視も緩んだ今が逃げ時だろう。ロシナンテは能力を発動し、自分たちから音を消した。


   ***

「やったなコラさん!うまく海岸まで来られたぞ!」
「あ、あぁ……」

うまく逃走できた。それこそ拍子抜けするくらい簡単に。部屋の窓から脱出する間、灯台の光はこちらを向かなかったし、物陰になる場所が常にあった。あわよくばと思っていた部屋の鍵は運よく開いていたし、脱出用の船も簡単に見つかった。極めつけは───



さんどこに行くの?』
『今日は街まで買い物に行く予定だったろ』
『でもセンゴクさん、今日は忙しいからやっぱり行けないって……』
『あぁ。約束を破ったよな。だから二人で行こう』
『二人で?』
『あぁ。こっちだ、ロシナンテ』



「こっちだ、ロー」

まだ幼い時二人で海軍本部を抜け出して街へ出ようとしたことがあった。
誰にも見られていないはずなのに何故かセンゴクにバレてしまい、その日一日本部の掃除を命じられたのだが、今思えば居場所を突き止められたのは覇気によるものだったのだろう。その時に使った秘密の抜け穴が、何故か開通している。逃げだしや外部からの侵入を防ぐためにここは封じられたはずだった。

あまりにも、運が良すぎる。
たえがたい幽閉がずっと
<<  >>
Back