今までで一番広範囲の“シャンブルズ”に体は耐えきれなかったらしく、ロシナンテと別れた先でローの体は発熱した。
近くにいた老人に介抱され虐められていた白熊を見つけて、気付けばその時の面々と寝食を共にしていた。

(偶然だな……)

ロシナンテに言われた言葉を思い出して嘲笑を浮かべた。それから少しずつ、あの男を思い出すことも減っていたのだが───




「久しいな!ロォォォォオ!?」

何が悲しくてこんな再会をしなければならないんだ。ローは帽子を深く被りながら軍艦で足を滑らせ尻餅をつくロシナンテを睨み付けた。
死ぬかもしれないと、寒さだけではない理由で震えていたあの時からしたらコラサン──もとい、ロシナンテが生きていることはただ嬉しい。嬉しいのだが、どうしても素直になれない理由はその近くにあった。

「…………チッ」
「おぉ怖ェ。海賊みてぇな顔するじゃねぇか」
「海賊だからな」

波が起こるほどの風は男の髪をパタパタとはためかせ煽るように歪む口以外を隠している。腹立たしくも、あの頃見た顔とそう変わらない気がする。

(………………いや、)

停止しかけたローの思考を動かしたのはベポの悲鳴にも似た声だ。咄嗟に反応し飛んできた砲弾を切り捨てる。遠くの船から感嘆の声が聞こえた。

「砲弾を真っ二つとはさすが船長様だなァ」
さん、当たったらどうするんだ!」
「当てるつもりで撃ったんだよ」

呆れた顔を浮かべるの肩を揺さぶっている男にはやはり違和感しかない。メイクがないだけで、よく喋るようになっただけで、こんなにも別人に見えるとは驚きだ。

「シャンブルズ」
「!?」

視界は一転し、遠くにいたはずのローが目の前にいる事実にロシナンテは目を白黒させる。近くの海に落ち続ける砲弾の音と周囲に立ちふさがるオレンジ色のつなぎを着た集団を見てようやくここがハートの海賊団の船の上だと理解した。

「ロー……」

色々とかけたい言葉があったはずなのに、本人の顔を見た途端つい声が詰まる。敵の陣地にいるというのになんと腑抜けた面か。

「……コラさん、あんた老けたな」
「そういうお前はでっかくなったなァ」
「何を笑ってやがる」
「決まってるだろ。お前にまたこうして会えたからさ」
「そうかよ……」

───それは、こちらも同じだ。と、声にするのはどうも難しくて

結局言葉が喉につかえたまま、それどころではなくなってしまった。

「話は終わったか?」
「バケモンが……ッ」

月歩だけで軍艦から飛んできた男はそのまま自前の刀を振りかぶりローの首を容赦なく狙う。の足が甲板に乗った途端背後にいたシャチが銃口を向けるが、引き金を引く前に足蹴リを食らわされ吹っ飛んだ。多勢に無勢。それでも気を緩めることが許されないことはローが一番分かっている。

「悪いな。俺らは海軍でお前は海賊。仲良しこよしは出来ねぇ身でなァ」
「仲良しだと?寒気がするぜ」

鬼哭はその長い刀身を活かして相手を間合いに入れまいとするが、どれだけ振っても能力はおろか、かすり傷一つつけられない。体力ばかりが消耗する。腹立たしい。

「覇気って言うんだ。まだ知らないだろ」
「……っ!!」

一瞬で踏み込まれた。防ぐ間もなく視界が揺れ、足元がおぼつかない。背後に壁がなかったら情けなくへばっていただろう。勝てる見込みがない。

「あぁ弱い。弱いなお前。そんなんじゃグランドラインでやっていけないんじゃないか?」
「黙れ……ッ」
「そうだロシナンテ。お前がしばらくついてやればいい」
「……は?」
「俺はお前が億越えにでもなってくれりゃあ万々歳なんだ。一発で稼げるからな。それまでロシナンテが傍にいれば安心だろ?」

何が狙いなのか読めないが、そんなもの、答えならあの時から決まっているじゃないか。

「いらねェ。おれたちは海賊なんだ。欲しけりゃ自力で奪い取るさ」
「……ハッ、やってみろ」

は愉快気に口元を緩ませ、脚をあげた。蹴り飛ばされれば背後は海だ───

「あ゙?」

海に落ちたのは、咄嗟にローの背後に回ったロシナンテだった。あの馬鹿、と悪態をついて船端へ駆けるの顔に僅かな焦りが浮かんでいて、珍しいものが見られたと頭に血が上っていたローもわずかに冷静さを取り戻した。

「アンタの面は、あの頃見た顔とそう変わらない気がする」
「あ?」
「───が、少し不抜けた面になったな」
「はは、お前の生意気さは変わらねぇんだからよ」

すれ違いざま、二人の会話を聞き取れたのはベポくらいだろう。そのままは海に飛び込み、ローは蹴られた脇腹を抑えながら潜水を指示した。

「キャプテン、いいの?」
「構わねェ。どうせこれから、嫌って程拝む面だろうさ」

苦々しい表情で言い捨てて言ったが、ペンギンに言わせれば「キャプテン上機嫌だな」との事で。人間って複雑だなぁと言いながら船長の指示に従うべく船内へと下りて行った。



「あぁあ。ロシナンテのせいで逃がしちまったじゃねぇか」
「はぁ……はぁ……最初からそのつもりだったろう。それよりさん」
「なんだ」
「試すようなことしなくても、おれは自分で選んで貴方の傍にいるんだよ」

濡れた髪の隙間からしてやったり顔で笑うロシナンテと目が合って、ぶっきらぼうに返事をするとなおの事笑った。

「なら俺に並べるようさっさと昇進しろ!」
「イデェ!!」

悶えるロシナンテの濡髪をぐしゃりとかき混ぜて部下に巡回続行の指示を出す。

「追わなくていいのですか」
「いいさ。お互い生きてりゃ、また会える」

胸に黒羽をつけた部下が預かっていた軍帽を手渡しながら問うが、その実答えなど分かっていたようで、実質『見逃す』という指示に表情を変えず頷くだけだった。

「そうだろ、ロシナンテ中佐」
「……そうですね」

ずるい人だ。軍帽の下からこちらをちらりと盗み見て楽し気に笑う顔も、それにつられてつい笑ってしまう自分も何一つ変わらない。

「生きていれば、なんだって」

だから今は、もう少しこのままでいい。
これにて仕舞い
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