「うわぁ……」
太刀川さんとのログを見てつい声が出る。
嫌な戦い方をする。何よりシールド持たないって言うのは誰にでも真似できるものじゃない。攻撃は最大の防御とは言うが、それは近、中、遠、全てを攻撃対象としたこの人だからできることだ。
「お前の風刃を参考にしたんだ」
「あぁ、やっぱり来ると思った」
「思ったんじゃなくて視たんだろ」
いつの間にか横に並んださんは俺を見下ろしてニタリと笑う。なんとも意地の悪い笑みに俺は肩を竦めて応対した。
「迅、お前ブラックトリガー手放したんだろ?太刀川の相手してくれよ」
「やってるよぉ、それでも太刀川さんはさんに相手してほしいの」
「妬くなよ」
「何言ってんだか」
最後まで再生し終えたログは先頭に戻りリピート再生を始める。ゆったりとした手つきでウィンドウを閉じたさんは持ち前の低“温”ボイスを、まるで赤子に語りかけるようにゆっくりと放つ。
「まだまだ俺も戦力の一つだよ」
「……ほんと、頼りになるなぁ」
「そういうことだ。あんま頑張りすぎるなよ」
「毎回そう言ってくのあんたくらいだよ」
喫煙所からの帰りだったらしいさんはほんとに数分だけここにいて、あとは手をひらひらと振りながらまた仕事場へ戻っていった。頑張りすぎるのは、お互い様だろう。
「……あの人も変わらないなぁ」
あのおれに向けた口癖を聞くたびに思い出す、初めてさんと会った第一次侵攻の時のこと。
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「何かお困りですか」
「……」
辺り一体のトリオン兵を片付け敵の追撃が止んだ夕方過ぎ。一台のバイクが場違いにも瓦礫の山へやってきて、つい声をかけた。読めない雰囲気に興味が沸いたのが理由のひとつ。この人の未来が、おれたちボーダーにとって非常に有効であったのも、理由のひとつ。
「何か、お困りですか?」
返事がなかったので繰り返す。人が話しかけてるんだから、ヘルメットくらいとればいいのに。
「……探し物をしている」
「探し物?一体何をです?おれが手伝いましょうか」
「いや、“探してた”んだ。もう大丈夫」
「そうですか……」
いまいち話の噛み合わない面倒くさそうな人に声をかけてしまったと後悔の反面、今唾をつけておかないと今後ボーダーに加える未来を選ぶ確率が大幅に減ってしまう使命感のようなものを感じて立ち去れない。
「お前は」
「え?」
突然向こうから声をかけられて驚いた。間抜けな声が出たが気にしちゃいないらしく、ヘルメットをとった先の、冷たい目をしたお兄さんはその冷ややかな目を一度もそらすことなくこちらに向ける。
「まだガキなのに、偉く大人びてるな」
「……ど、どうもぉ?」
「褒めちゃいねぇよ。憐れんだんだ」
「え?」
驚くほど心が揺らいだ気がした。
助けが遅いとか、お前のせいでとか、見捨てるのかとかガキのくせにとか人殺しとか今更来やがってとか助けが遅いとか!
ここ数日言われてきた言葉よりもずっと強く、心が揺らいだ気がした。
「ここ数日何度かお前を見かけたけどさ、特殊な力でも持ってるのか?大人と並ばされて、大変そうだ」
「いや……別、に、というかよく、覚えてたね」
「そっか。余計なお世話だったな」
「あのさ!」
ヘルメットをかぶり何度かかけ直したエンジンがようやく音を立てた時、ようやく我にかえって声をかける。
「気が向いたらさ、ボーダーに来てよ。あんたの力が必要になるって、おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
「サイドエフェクト……」
聞き間違えでなければそう呟いていた。あと、「気が向いたらな」とも。
ヘルメット越しだったから、だろうか。ボーダーに来るという未来は確定しなかった。
「あんまり頑張りすぎるなよ」
そう言い残して去っていった男がボーダーに住みついたのは、あの日からそれほど時間は経っていなかったと思う。
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「おい迅」
「あれ、戻ってきた。なんか忘れ物?」
「いやこれを押し付けようと思って」
「あー、おれの好きなジュース。どーしたの?」
「自販機のスロットで当てた」
遊真でなくてもわかる嘘だ。あのスロットつき自販機にこのジュースは置いてないんだから。
「ありがとー」
まぁ、言わないけどね。
「相変わらず忙しいんだろ。あんま頑張りすぎんなよ」
「さんこそ、きちんと休息とってます?」
「お気になさらず。最近はアラームがうるさくてね」
アラーム。置時計でも買ったのだろうか。あぁそれとも……?
何にせよ、引きこもりっぱなしだったさんがよく基地で見かけるようになったのは、誰にとってもいいことだろう。
迅が下した宣告
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