「さんが受けてくれるなんて思わなかった」
「断られる前提で頼んだ態度だったか?」
肩を揉む、仕事手伝う、いいお店紹介する、うちの出水貸してやる。今まで思い付く限りを並べても首を縦に振らなかったさんが何度も交渉に使った飯を奢るならいいぜ、と了承したのは驚いたが、取り消される前にブースへと押し込んだ。
「何かいいことでもあったか?」
「いい事?特にないが、仕事が一つ片付いた事くらいかな」
「なるほど、──っと!」
つばぜり合いの間、身を引くように力を抜かれてバランスを崩す。引き技なら何度も体験してるが、この人の場合少しもその気配を見せずにやってくるからしてやられてしまう。
「まじかよ」
───ので、それを逆手にとることにした。バランスを崩した、のをいい事に足元にグラスホッパーを敷いて一気に間合いを詰めれば予想外の急接近に対応できなかったさんの負け。取り敢えずは俺の一勝だ。
「やー、今のはなかなかいいな」
「そうだろそうだろ。しかしさんは反応が鈍ったんじゃないか?」
「馬鹿言え。ブランクって奴だよ」
「そんなにトリガー握ってなかったのか?」
2戦目が始まって5分程経つがいまだに姿が見当たらない。どこか住居に隠れたんだろう。面倒だし家ごと切っちまうか。
「トリガー起動したって相手がいなけりゃなぁ」
「だから俺が誘ったんだ」
「まぁそうだな。春秋はスナイパーだし迅も忙しそうだし。お前くらいだ」
優越感に浸りたいが、肩を撃ち抜いたスナイパーがいたんじゃそれどころじゃない。
「何でかわせたんだ?」
「マイクが銃の音拾ってるぜ」
「あ~……」
近寄られたスナイパーは羽虫だってよく言ってるよな。弧月を抜かれる前に切りつければ苛立ったような顔をしたまま、真っ二つになった。
「はっはっはっ、やっぱ鈍ったなぁさ───」
「もーらい」
転送されて、軽口を叩いてる間にいつの間にか頭が吹っ飛んだ。ライトニングとはいえノーガードを狙われては首は落とせる。というか、よく当てたな。
「くそー残念。5-0狙ってたのに」
「まだまだそうはさせねぇよ」
通信機の向こうで、きっとこの人は笑ってる。一泡ふかせることは叶わなかったが、まぁあの死んだような顔がまた笑えたならそれでいい。
「考え事とは余裕だな」
「!?」
耳が飛ぶ。あちらのマンションのどれかから撃ってきたのは分かるがさて、どこからか。
「残念。ちょっとはずしたな」
「そこだなー」
グラスホッパーで一気に近づく。ベランダの開いている家から撃ったんだろう。ならその室内に向けて旋空弧月を撃てば炙り出せるはず。
「旋空───」
────タァン
銃の発射音はあろうことか足元から聞こえる。
バフン、とベッドの上に落下しても、さてはて今のはどういうことだ。どこから撃たれたんだ。
「近寄られたスナイパーは羽虫以下なんだ。いつまでもそこにいるわけねーだろ」
死角から地面にダイブしたらしい。いやいや、トリオン体とはいえグラスホッパーも持たない奴がマンションからの飛び降りってのはないだろう、結構高いビルなのに。
「さてこれで2-2だな」
「勝ち越したいな、今日こそは」
「いやァ、今日は無理だろ」
やたらと説得力のあるさんの言葉は、迅の予知同様覆したくなる。
両腰に構えた弧月をいつでも抜けるように構えながら慎重にその姿を探すのは、スナイパーにあっさりと殺されるなんて事を避けるため。
「……!」
足元に影ができて、急いで上を見上げれば案の定アイビスを構えたさんがいた。
「いたいた」
さんの立つ電信柱を斬り倒し落とす。
旋空を持っていないしエスクードも出せない今、向こうが空中にいるならこれはもう俺の勝ちだろう。
「旋空弧月」
「スラスターオン」
「レイガストか」
相変わらず斬新なトリガー編成だ。遠近の武器を持っているのだからチップ8個全て埋まっているだろうとは思っていたが、まさかスラスター付きのレイガストとは。
ライトニング、イーグレット、スラスター、エスクード。
弧月、レイガスト、アイビス、シールド。これで今回のトリガー編成は割れたな。あとは技量で押していくだけだ。
「いくらさんでも、俺相手にエスクードは相性悪いだろ」
「ずいぶん買ってくれるなぁ」
刀身を細くして、“武器”としてレイガストを使う人間は珍しい。村上や三雲もあくまで盾として使っていたはずだ。
「何か企んでるな?」
「さぁどうだろ」
「言わないのなら吐かせるだけだ」
体重を前にかけて押しやり腕をめがけて蹴りあげる。力の緩んだところを思い切り弧月で叩けば左手ごとレイガストが飛んだ。
「残念。俺の勝ちだな」
「……ッ!」
「ハハッ!」
この時見たさんの焦り顔、あまりに珍しいもんだからつい見入っちまって、また見たいなぁ、なんて頭の隅でぼんやり考えながら旋空を放った。
太刀川、、ベイルアウト
「…………………………あれ」
何で俺までベイルアウトしてんだ?あの状況ではスナイパーなんかできないし、あの人は旋空つけてないから中距離は対応できないはず。
「悪いな太刀川」
ウィン、とブースのドアが開き、外にはまた涼しげな顔に戻ったさんが立っていた。
「今回、俺はシールドを持ってない」
「うそ」
「代わりに散弾銃を装備した」
諏訪に教わったんだ、とか手首と片手だと照準難しくて、などと言う声はぼんやりと聞き流し、「今晩、ごちになるぜェ」と言った楽しげな声だけが、やけにはっきりと耳に残った。
太刀川との決着
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