あのあとさんの背後に回した手をどうしたらいいのか悩んでいるうちに木偶の坊の方があっさり離れていき、大げさに謝られた。さんが突然離れたから外の空気が寒く感じた。
なんとなくムカついたので遅くなった詫びに家まで送ってくれと言うと「わがままなガキだなぁ」と頭を撫でられ、余計に俺を不機嫌にした。


「ほれ」

屋上を降りてさんの部屋の前に戻ると、部屋からでてきた彼は俺にヘルメットを渡してきた。

「何だよ、送れって言ったのはお前だろ」
「なぁ、あんたその頭でまだ免許持てんのか」
「ははッ!運転は侵攻前からしてるから交通ルールは頭に残ってるよ」

答えになっているようないないような。まぁ早く帰れるに越したこのはないからと地下の駐車場に行くと、思ってたよりもずっと大きなバイクが他の車体よりも遠くに止められていた。

「あんま外いかねぇから埃被ってるかもなァ」
「この間『女のとこ』行ったんだろ」
「そういうことをな、大声で言うんじゃねぇの」

完全にブーメランだよその発言。

「それにあん時のは部屋に置きっぱなしの“あの子”の事を言ってたんだ」

腕をプラプラと揺らす仕草が何を意味するのか考えてる間にさんは簡単な点検を済ませてメットを被る。
あぁ、さんの部屋でみた腕の写真。あれは女性の腕だった。
また気分悪くなるのを悟られる前にメットを被り住所を伝える。

「ほれ」
「は?」
「しっかり掴まってろよ」

バイクの二人乗りなんか初めてだから、相手の腰を掴まるのには抵抗があるし、取り付けられたバーにでも掴まっておけばいいだろう。そう思っていた俺を見透かしてか無理矢理腰を掴まされる。ドクンと跳ねる心音には心底嫌になるが、嫌悪感を抱けたのは一瞬で、あとはもう振り落とされないようさんに掴まるので精一杯だった……。


   ***

トラウマになりかけたデスドライブも、もう一週間以上前のことだから月日の経過は早い。特に今はランク戦もないから日にちを意識することもないし、防衛任務や呼び掛けがなければ本部に出向かない。さんは勿論、同じB級隊員すらしばらく見てない奴もいる。
というか、無意識のうちに人と合うのを避けているのかもしれない。


『…お前までそれを言うなんてなぁ……』


形はどうあれ、少なからず俺はという人間に好意を抱いている。
記憶力に難があるあの人が名前を覚えてくれて、言い付けを破って勝手に部屋に入った俺を面倒みてくれたさんも、俺を気にかけてくれていると思っていた。なんて馬鹿馬鹿しくて恥ずかしい思い込みだ。


『なぁ、───。』


あの人は俺の影に弟を見ていただけ。
問題なのはそれだけのことでこんなにも哀切な思いになる自分自身だ。

「認めたくはねぇんだよなぁ……」

自分の導きだした数式と解説書の答えが違うとき、あちらの誤植なんじゃないかと疑ったことがある。今もあの時と同じで、本当の答えは知っていても自分のもつ考えこそが正しいと意地になってしまうのだ。
「俺の言った通りじゃねぇか」と笑う諏訪さんが容易に想像できる。
もんもんと頭を悩ませているとベッドに放り投げていたスマホが鳴った。

「どうした?」
「本部に来てないのか、今」

穂刈からの電話を切ってすぐ家をでた。少なくとも家でくさってるよりは今は本部に向かうべきだ。だって───


   ***

「遅かったな、荒船」
「今の試合結果は?」
「村上は1-4で負けた。カゲはこれが4試合目、今のところ2-1だ」
「鋼が1-4で負けた!?」
「すまない……」
「いや謝ることじゃねぇけどよ」

そうこう話している間にカゲとの4試合目は僅かにカゲのスコーピオンが急所を外し、引き分けに近い形でカゲが先に落ちこれで2-2。

「というか、何故急に出てきたんだ?」

今まで何度か手合わせしてくれと頼んだこともあったが、その度「仕事あるから」とはぐらかされてきたのに。

「何の事かは分からないが、一段落ついたと言っていたな」
「そうか……」

あの腕の身元、分かったんだな。4年以上前に見た景色を鮮明に覚えている感覚なんか俺には分からないが、片腕一本だけで誰なのかを特定してしまうほど覚えているなんて、さぞ気分の悪いものだろう。

「あ、カゲ切られた」
「あるのにか、サイドエフェクトが」

どこが狙われているのがバレるなら力業で、というところだろうか。スコーピオンを弧月で切り伏せ間合いを詰める。次のスコーピオンを出される前に伝達器官を切り落とした。やってることは単純だがその動きは読みきっているように無駄がない。
5試合目もさんに軍配があがり、それからしばらくして二人がブースからでてきた。

「ハッハッ!いいなぁお前のSE。戦い向きだ」
「勝ち越しといて言うな嫌味かよ!」
「……」

この醜い感情がアンタに対する感情の答えだなんてつくづくムカつくよ、さん。

「俺とも一戦付き合ってくれよ」
「はぁ、もう疲れたんだが」
「一戦でいいから。一回だけ」
「……。しょうがねぇな、俺は見返しを求めるぞ」

ぐるりと首を回してこちらを見下ろす。その顔に一発キメてやらねぇと気がすまねぇんだよ。
隠しきれない告白



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