久しぶりにアタッカーのブースへ行ったのはカゲと鋼に呼ばれたからだ。一応、鋼の師匠である以上相談があれば受けてやるし、カゲから個人ランク戦を申し込まれれば受ける。そのうち空閑や米屋、緑川らが集まって各自ブースに入って戦ったりそれを眺めたりしているうちに時計は19時近くを回っていた。
「おーおー。槍バカ、俺が防衛任務に回ってる間に楽しそうなことになってるじゃねぇか」
「なんだよ弾バカも参戦したいのか?残念だけど今回はアタッカーの集いなんでね」
「ん?呼んだか」
「太刀川さん、お疲れ様です」
「お疲れ米屋。なかなかの大所帯だな」
太刀川さんの登場に緑川や米屋は一回お願いしますと騒ぎだしたが、太刀川さんは珍しくきっぱりと誘いを断った。
「悪いな諸君。今日はようやく大御所との予約を取り付けたんでな」
「大御所?」
「大御所というかレアものだな」
太刀川さんが楽しみにするほどの実力者でここに滅多に顔を出さない人といえば忍田本部長くらいしか思い浮かばない。しかしそれは意外な人物が否定した。
「あまり持ち上げんなよ太刀川」
「来たなさん、さっそく入ろうぜ」
「忘れんなよお前、今日の呑みはお前持ちだからな。春秋、お前俺の代わりに覚えとけよ」
「お前、年下にたかって見っともなくないのか?」
「お互いいい大人なんだから問題ねぇ」
突如現れたNo.1アタッカーと、スナイパー界における不動のトップである東さんが一堂に集まったのだ。周囲がざわめくのも無理はない。その二人の間でけだるそうにするさんが、太刀川さんの言う“大御所”だというのか。
「えぇ!?さんここで見るのすごく久しぶり~!」
「……すまん、誰だっけお前」
尻尾でもふりそうな喜びようで近寄った緑川を視野に入れるも案の定覚えていないようですぐにこめかみを抑えて反省のポーズをとった。これは見かけだけで大して悪いと思ってないときの動きだと前に東さんが言っていた。
「ひどいなさん、C級の時色々アドバイスくれたじゃん!」
「覚えてねぇよ。あれは俺の趣味というか仕事みたいなもんだし」
こっちからひどいと言われ向こうから早くやろうと言われそっちから目立ってるなと冷笑される様を、俺たちは近くのソファーから眺めていたのだが、ふとさんの目線がこちらに向けられそのまま破顔した。それと同時に俺の後ろにいるカゲの舌打ちが聞こえる。
「影浦って言ったっけ、お前のアッパー未だに忘れらんねぇよどうしてくれんだ」
「うるせぇ!テメェが勝手に記憶してんだろ」
「あれは面白くてなぁ、つい記憶しちまった…ッ」
意外だった。カゲとさんが知り合いだったことも、さんがああやって口を開けて笑うことも。
この時の黒いもやのような感情が何なのか分からない程俺は幼くはない。
「さん、もういいだろ?」
格子状の目を大きく見開いて笑う太刀川さんに引っ張られさんは口角を上げたままブースの中に押し込められた。俺には、特に何もなかったな。
「今日こっちに来たのは正解だったな」
「東さん」
俺に向かって声をかけてきた東さんは自分の荷物にくわえもう一つショルダーを抱えていた。おそらくさんのだろうな。
「あいつもお前と同じ、弧月とスナイパーどちらもマスタークラスだから参考になるだろ」
「え、弧月もですか」
「あぁ。あいつはスナイパーのマスタークラスになってから弧月も習得してたたな」
「へぇ……」
東さんにつられてスクリーンを見る。初めて見るさんのトリオン体は初期設定からあまりいじっていないシンプルな型をしていた。
「お前、よくあいつと話してるよな」
「……」
「いや別にいいんだけど、あいつお前の事ちゃんと覚えてないだろ?気を悪くしないのかなって」
「副作用への興味本意で俺が意地になってるだけですよ。どれくらいで認識されるのかって」
スクリーンの隅に映る二人の試合はもう2-0になっていた。勿論太刀川さんの優位だ。
「……昔は、もう少し記憶力があったんだ。あいつも第一次侵攻の被害者だよ」
「どういうことですか」
「お前も知っての通りあいつは今までこっちに顔を出さなかっただろ」
そういえば第一次侵攻の片付けに従事していたと言っていた。
「あいつは、あの時見た景色を一片も忘れていない。頭のなかのほとんどの容量を4年以上前に埋めてるんだ。だからまぁ、根気強く頼むよ」
「……あの、何故その話を俺に?」
「ハハッ、あんだけ物覚えの悪いやつ、あえて親しくなろうと思う人なんかそういないだろ?あいつなりにお前のこと覚えようとしてるみたいだからさ」
「……」
帽子を被っていてよかった。表情を隠すように深々と被る。試合はいつの間にか2-2になっていた。
好奇心ゆえの執着
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