黙ってられない

19歳にして家長。今時家長なんて言い方は古いかもしれないが、本人が言うのだからそうなのだろう。

「父親は市役所の職員でさ、侵攻時の避難誘導の際に建物の下敷きになって死んじまった。母も心弱っちまったし俺が家の事をやらねえといけない。だからうちの隊にいても遠征にはまず行けないぜ」

ロビーの隅にあるソファー席に隊員を集めて重い話を淡々と話しているのがつい耳に入ってしまった。

「折角の宇宙旅行に行けるかもしれない実力のあるお前らを俺の個人的事情で縛りたくは ないからな。俺を追い出すもよし、どこかに異動するのもよし。その時は全力でコネを使い足を使いサポートするから」

結局の隊にいるオペレーターも隊員もの下から離れることはなかった。むしろ淡々と、公式のランク戦から辞退しようと進言した。

「それこそ『個人的事情』で遠征に行きたい隊は多いでしょ。行かない俺達がいたら他のチャンスを潰しちゃいます」
「ははぁ、随分上からの意見ですなあ。さすが自称当真の四番弟子」
「自称なら一番を名乗ればいいのに」
「謙虚なの」

生駒隊と同じく会話のテンポがスムーズな所に親近感が沸いた。通路を挟んで向こう側の席にいるから顔まではしっかり見ることはできなかったが、後日、同じ声の男が生駒と親し気に話しているのを見てこの人かと確信した。

「この間は防衛任務変わってくれてありがとな、これ生駒隊に差し入れ」
「わざわざええて。お互い様やろ」
「恩を返す機会がなさそうだからさ」

生駒に呼ばれてが持参した紙袋を受け取るついでに声の主を盗み見た。うっすら隈のついた目でも口元のせいか表情は柔らかい。生駒以外一切視界に入っていないらしく、不躾に観察する隠岐がと目が合うことはなかった。
何故これほど気になるのかわからないが、の声が聞こえるたびについ耳を傾けていた。は生駒と同い年ということもあり、ボーダー基地内で会えば必ずと言っていいほど雑談に興じているし、水上と は将棋仲間らしく、こちらも以前から交流があるらしい。
幾度か彼を目にしているうちに、隠岐はの『余裕のなさ』が目について仕方なかった。余裕がないのに、ゆとりのある穏やかな態度でいるから周囲がそれに気付かない。本人も人に頼られる事を苦とは思っていないのだろう。

「難儀やなあ」

同情の念が嫉妬に代わっていたのはいつからだろうか。余裕のない彼の数少ない内輪にいる人々は、数が少ない分とても大切に扱われている。外野にいる自分は名前すら覚えられていないというのに。
子供が駄々をこねるような行為だと水上に窘められたこともある。みっともないと自覚していても、スコープ越しに覗くの顔を見るとつい引き金を引くことをやめられない。普段の穏やかさが剥がれた、目前の戦いを楽しむ顔が何より好きだった。

「最近はさ、見つけられるんだ。お前がどこにいるのか」

だからの目が真っ直ぐに自分に向いたあの時は、自分が撃たれることなんて頭から抜けてただただ喜んでしまったのだ!





「え、隠岐が可愛い?」
「あぁ。この間初めて顔見たけどイケメンってよりかわいい顔してね?」
「いやいやそれはズルいやろ。イケメンかつ可愛いて」
「そういう話?」 
「それ、本人いる前でする話ちゃいますよ」

色々と付き合わせてしまったお詫びにとを作戦室に招待した所までは良かったのだが、今までいてもいなくても変わらない存在だった自分へ急に眼を向けられるとなるとそれはそれで居心地が悪かった。

「隠岐、ちよっとこっち」

ソファーの横をぽんと叩かれ催促されても、足はなかなか動かない。後ろからさりげなくマリモに蹴られようやく足が進んだ。

「うわ、ちょ…っ」
「うん、やっぱりかわいい」
「〜〜〜っ!!」

髪をぐしゃぐしやにされた事とかまじまじ顔を見られることとか。信じられないくらい心臓が激しく痛いくらいだというのに、周囲は全くの無反応を見るとこれは何も特別なことではないらしい。

「失礼します…っ!」

「なんや。恋は追われるより追いたい派か?女子から散々追われ慣れてるくせにそんな顔赤くせんでも」
「そんなことないです…っ」




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