撃たせてやらない
頭を撃ちぬかれた。
どこからの攻撃か分かるように希釈に希釈を重ねた痛覚で感じた額への違和感。
あぁまた頭を撃ち抜かれたのか。
ベイルアウトする寸前に見た弾丸の射線には本とビル、公園……ああくそ、やっぱ姿は見えないか。
「うっ」
「お藤れ様でした」
「おつかれー。やっぱり今回も」
「はい。隊長を撃ったのは隠岐隊員ですね」
「にゃろォ」
オキナンチャラ、生駒隊スナイパー、俺や生駒の二つ下、イケメン。俺が知ってるのはこれくらいだ。特段話したこともなければポジションも違うから接点がない。強いて言うなら俺と同い年の生駒、将棋仲間である水上とはよく一緒にいるからそのたびに顔を合わせるくらいだな。
だからいつからなのかも原因も分からないが、生駒隊と模擬戦すると俺は頭を撃ち抜かれて死ぬ。この間は俺ともう一人いる生駒隊の少年(人の名前を覚えるのが大の苦手だ)が一対一で鍔迫り合いをしていた時に撃ち抜かれた。味方の援護のつもりだったのか知らないが、試合結果だけ見れば俺が生駒隊の2人を引き付け、あまつさえスナイパーの位置を知らせたことで王子隊に勝ちを譲ることになった。
隊はともかく、僅差で争っている生駒隊は王子隊にポイントが入るのは避けたいだろうに。
「本人に聞いたんですか?」
「『なんで俺ばっか狙うの』って?ちょっと言いづらいだろお。なんか情けないし」
「ここ四か月、同じ人から100%の狙撃率で負けてる方が 情けないですけど」
「さっすが我が隊のオペレーター。手厳しいね」
「どうも」
まだ現場に残ってる隊員2人を観察して改善点や成長した点を記録していく。うちの隊は実践からブラッシュアップしていくスタイルなので、事前に綿密な作戦を立てる玉狛第二とは真逆の方針だ。実際に動いている隊員を見ない事にはどうしたらいいのかわからない情けない隊長で申し訳ない。
「もうそれくらいでいいんじやないですかー。ノート1ページ分のダメだし見たらあいつら泣きますよ」
「褒め言葉も書いてるんだけどなぁ。ま!今日はかなり頑張ってるし、あいつら戻ってきたら飯行こう」
「後ろからバックワームつけてる人、おそらくゾエさんが来てるよ。そのまま北に走って三つ巴にしちゃおう」
「聞いてなぁい」
うちのオペちゃんの仕事ぶりには惚れ惚れしちゃうね。我儘言って引き抜いた甲斐がありました。あ、お昼は車出しちゃお。国道沿いの店もこの時間なら空いてるだろうし。
「わーん!隊長落ちるの早いっすよぉ!」
「悪いな!お疲れお疲れ!前回の反省が3箇所も改善されてたぞ!残りの反直会は飯食いながらやろう。他の隊にお礼言ってから行くから先駐車場行ってて」
俺が投げた車の鍵を受け取って3人は嬉々として駐車場に走る。人間誰だってタダ飯は嬉しいもんな。わかるわかる。
「水上、さっきはありがとな」
「ええですよ。生駒隊長もおらんと暇してたとこやし。むしろ」
「ん?」
「何でもないです」
「なんだよ、言えよ」
「ええて、そんな寄らんでください」
「冷たいなあ〜」
「んああ゙っ、わざとですか」
「何が?」
「邪魔だ」
「お、影浦達も付き合ってくれてサンキュー」
「貸しだからな」
「分かってるって。俺にできる事なら何でも言ってくれ」
「そりゃあ楽し……ア?」
「どうした?」
「…いや。また面倒クセェことになってんな、お前」
「おいおい俺のが年上だぞぉ?」
「知るか。離れろ。色々鬱陶しい」
「?」
手ひどく振り払われてしまったがまあ当初の目的であった模擬戦へのお礼は言えたからいいだろう。車に乗って待機しているであろう隊員たちの元に向かう。
水上だけ苦虫を嚙み潰したような顔で俺を睨んでる気がするんだけど、あいつも腹減ってんのかな。
***
タアン。 二週間ぶりの清々しい脳天ぶち抜き。そうだ、今日の相手にはやっぱり生駒隊がいた。
「……うーん。何か恨みを買っただろうか」
「何度目ですかあ隊長」
「隊長こそ反省を生かしてくださいよ」
「ぐうの音も出ねえ」
そんなに狙いやすい頭してるかな。手鏡を見てもそこに映るのは髪色も髪型も至って普通の冴えない19歳。もう絶対偶然とは言えない確率で『殺され』るのには何かわけがあるんだろう。
「さすがに鬱陶しいわ。何かの嫌がらせとしか思えない」
「そう思うなら対策しなきゃ」
「そうだなァ。隊長たるもの、まずは自分の行動で示さないとな!」
「そうですね。今までの弾道と飛距離と隊長の死に顔をまとめたものがありますが使いますか?」
「さっすが優秀なオペレーター!最後の顔写真以外はとっても優秀!」
どうにしかして狙撃手を見てやろうとする半目状態の俺の顔を見てケタケタ笑う隊員二人にげんこつをかまして、いざ最終確認だ。
〈──って、リベンジ戦にしては早くないです?またやられますよー〉
「大丈夫。元々対策は考えてたんだ。さっきの資料で答え合わせができたから怖いものなし」
〈それは楽しみです〉
「反撃だぜ〜。俺が輝かしい囮になるんだ。 お前ら隠岐を落とせよ」
〈そんな簡単に言わないでくださ〜い〉
〈右に同じ!〉
情けない事を言う割に楽しそうな声の二人はいざという時俺に視界共有をしてくれるよう頼んである。今回の模擬戦は生駒隊と玉狛第 二、鈴鳴第一だ。同年代で頼みやすい生駒隊と鈴鳴だけのつもりが、偶然居合わせた玉狛第二も混ざってくれたのは儲けだ。あそこにいる外国人も確か、エスクードを使う。
「やぁ助っ人君。一緒に囮になってくれよ」
「何の話だ」
戦闘慣れなんてもんじゃない。白チビといいこいつといい、絶対どこかで『やってた』タイプだ。面倒くさそうだからあまり深くは聞かないけど
「さっきから随分上の空だな」
「へ?」
「周囲をいたく警戒している。何か策でもあるのか」
「あっても言わなくね?それに言ったろ。お前"も"囮なんだ」
開けた場所へ行く。すごいなこいつ、示し合わせたかのように怒涛の攻撃をしてくれるからちょうどいい。あまりに激しい攻撃を避けるために、エスクードを展開する。
───タァン
「……見えたな、いけ」
バックワームをつけた隊員はまだ半数もいるが、この絶好のタイミングで俺を狙うのは一人だけだろう。ヤマを張っていた隊員の一人がグラスホッパーで近づき、仕掛けていたスパイダーと合わせてなんとかヤツを仕留めてくれた。残念ながら視界共有であいつの死に顔を見てやる余裕は今、ないんだけど…ッ!
「助かったぜ助っ人外国人。お前のおかげで 俺の目標は果たされた」
「詳しくは分からないが利用された事は理解した。なんとも腹立たしいな」
「勝手に言ってろ。じやあな」
建物の中には事前にメテオラを仕込んでおいた。さっきだしたエスクードを盾にして爆撃 を逃れ、崩れる建物に乗じて姿を消す。風間隊ほどじゃなくても力メレオンで逃げるくらいならなんでもないんだ。頭ズドンの心配がなくなった今、俺はこの戦場を好き勝手混乱させてやるぜ!!
「お」
「あ」
目の前に現れた鈴鳴の、村上じゃない方。帽子の、来馬日く心配で目が離せないって方の奴だ。
「スナイパーがこんな堂々と道路を歩いてるんじやないよ〜」
「今、どっから…っ」
「爆風に流されてきたから予想し辛かったかな?」
旋空弧月で首を切り離す。インカムで珍しくオペちゃんの歓声が聞こえて超気持ちいい〜っ!最近忙しくて来られなかったが、やっぱり模擬戦闘は
「最高だぜ!」
「そら良かったな」
「ア゚」
「……私の『すごい』を返してください」
「オペちゃ〜ん。生駒が近づいてるの気付いてなかったの?」
「向こうの二人が三雲隊員との戦闘中に空閑隊員まで現れて大変だったんです」
「なら仕方ない」
戦いはかなりいいペースだ。助っ人外国人君はあの爆発により駆け付けた生駒隊の二人に切られたらしく、白チビ君と村上が戦い、村上が敗れたものの片腕と脇腹を削られた白チビもうちの隊員二人と交戦中にトリオン切れでベイルアウト。
「どうすか隊長!今回はかな〜り良かったでしょ!!
「最高!対峙しても冷静に相手の状況を分析できるようになってた。白チビ相手に勝てないと判断して相手が落ちるのを待つとは、昔のお前じゃできなかっただろ」
「僕はだめでしたぁ運悪く生駒さんと鉢合わせに……」
「ありゃ運が無かった。最後まで残るほど実力者に狙われる。恐怖は場数踏んで慣れるしかないわな」
なんて生意気にアドバイスしてるけど、俺が中学生だったらこんなに立ち回れてないだろう。人と会話するだけでも一苦労だった気がする。
「試合も終わったしロビー行くぞ。格下の俺達相手に付き合ってくれたんだからお礼言わないとな」
「はぁい」
ロビーにはもう生駒隊が集まっていて、食券の自販機横で円になっていた。
「生駒ぁ、今日はありがとな」
ビッと手をあげたが目はメニューから離されない。聞こえてるならそれでいいか。
「ちょっとさん」
「お前からぐいぐい引っ張るなんて珍しい〜」
「あんた、あれわざとやんな?」
「何がだ?」
「とうとう隠岐を釣ったな」
「さあ。偶然だろ」
「ここ最近滅多にエスクードなんか使ってなかったはずや」
「玉狛第二がいたから、あった方が便利だと思っただけ。俺も腹減ってるからもういい?」
水上の後方にあるメニューを見た時、一瞬あの“オキ”と目が合った。何か声をかけようと思ったが、うちの隊員たちが席を取ったと教えてくれたのでそっちへ向かう。背後から水上の空笑いが聞こえた。
***
「いやぁ、さすがにさ?いくら寛大な俺でもさァ。毎度毎度無言で撃たれりゃイラッともするさ」
「おいおい……そのシールドの使い方見たことあるぞ」
「諏訪パイセンと同じさ。相手が優秀なら頭だけ守ってりやいい。もう黙ってやられてやるかよ」
四方が射線になっては防ぎようがないが、二方面に絞れば問題ない。前に記録で見た諏訪パイセンの顔面シールドはやはり有能だった。軌道の先にいるであろう狙撃手は他の誰かが狙うだろう。俺は今、目の前にいる二人の足止めをする方が先決だ。
「なあ生駒、なーんであいつは執拗に俺を狙うんだ」
「ん?誰がなにを?」
ダメだ こいつ。
「お前は知ってんだろ水上」
「まー……でもすんません。馬に蹴られたないんで」
「ハァ……まあ言わないだろうね、お前は」
「何やら迷惑をかけてるようで申し訳ない」
「ソウダネ。悪いと思うならここを見逃して くれよ」
「それはできひん相談ですわ」
「だろうね」
頭上に溜めていたアステロイドを落とす。サイズを小さくしていた分速度をあげたアステロイドの雨だ。シールドで防がれるのは見越していたため、サブトリガーに仕込んでいたバイパーを二人の背後から狙う。
「八ア!?その手にある銃は…ッ」
「こりや見た目だけの囮弾はでませ一ん」
「腹立つなァ…!」
水上を落とすのは超久々だ。さすがに生駒の方はピンピンしているが、 腿に穴開けられたのはかなり頑張ったと言えよう。
「してやられたわあ」
「それ、やられる側の発言だぜ」
あぁあ、生駒に勝てるヴィジョンが全然わかね〜〜。
「死ぬまで生駒に勝てる気がしないぜ」
「おぉ。お疲れさん」
「お疲れ。いやあお前のとこの『岡隊員』だつけ?あいつのせいでかな〜り苦労させられてるよ」
「隠岐言います。隊長」
「名前までは知らなかったなァ」
すっごい、俺が女子ならキャアなんて奇声あげちゃうくらいの美形オーラが微笑んでて直視できない。こいつ絶対鏡の前で笑顔の練習してるタイプだ。そんな笑い方してるもん。
「こうやって──」
「隊長お!嵐山隊長が探してましたよ!すぐ来てください!」
「ほい。ほんとイケメンに弱いよねぇ」
「うるさいです」
「それじゃあ、“また”な」
撃たせてやらない
今まで散々受けてきた。シューターには個人の癖が出やすいというがスナイパーだって同じだ。建物、天気、太陽の向き、タイミングに高さ。 どうしたって得意な状況というのがあって、今までの経験やオペレータからもらった資料をすり合わせれば対策なんて簡単なわけで。
「最近はさ、見つけられるんだ。お前がどこにいるのか」
何故か嬉しそうに笑っているその顔にメテオラをぶち込んだ。
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