正式で正確で正直な
驚き桃の木山椒の木。
スパイダーの勢いを借りて体を素早く回転させ飛んできた男はその弧月を生駒の首めがけて振りかぶった。今までも何度か対戦したことはあるがこれほど大胆な攻撃は初めてだ。攻撃を躱された男は大きく舌打ちをしてまた向き直る。
「したうち……」
ショックのあまり固まった生駒の代わりにを切りつけたのは南沢で、「あぁあ」と眩きながらベイルアウトした。
「なんやったん…?」
首の皮一枚切られた部分から流れるトリオンを抑えて眩いた疑問には、答えの代わりに南沢の喜ぶ声が返ってきた。
「なあ」
「おぉ、さっきはありがとな」
「いやええねんけど、だいぶ驚いてん。俺なんかしたかなぁ思て」
「なんで?」
「それ俺のセリフや」
「んあ~?」
さっきの緊張感はどこへやら。
どこか遠くを見つめているの顔の前でぶんぶん手を振ってみても望んだ反応は返ってこない。
「ところで昨日のテレビ見た?あのバス旅」
「昨日はマリモちゃんの招集により皆で宿題しててん」
「ヴァア……夏休みの…宿題……ていうか手つけるの早くない?まだ長期休みの喜びに浸る時期じゃん」
「それは知らんけど」
それぞれの部屋から出てロビーに集まるまでの間も二人はずっと喋っているし、ロビーについてからも二人掛けのソファーに座って話の続き。と同じチームでスナイパーを務めていた荒船が話を振るまでテレビの話を続けていた。
「生駒くらいなんだよ俺の話にちゃんと付き合ってくれるの」
「長いからな。お前の話」
「うっせ」
穂刈にむけてベェと舌をだす様子も普段と何一つ変わらない。話している間も普段通りだったから余計に試合中の事が気になった。
今更聞ける雰囲気でもないが気になって今夜眠れなくなったらどうしよう。真剣な顔でそんな心配をする生駒はが目の前に差し出した煎餅を食べながら気のせいだったかもとそう思うことにした。
***
「やっぱ気のせいやないなぁ」
「なにが?」
はアルカイックスマイルを浮かべて今日も生駒の首を狙う。真正面からの大振りを避けることなど造作もないが、しかしあまりにも普段と違う戦い方に戸惑った。いつもはもっと、よく言えば計画的に、悪く言えば陰湿に追い詰めトリオンを削っていくスタイルだ。こんな急所狙いの直接攻撃などあまりに柄ではない。
「俺なんかした!?勝手にお前のお菓子食べてもうたとか」
「食べてないし俺のお菓子をお前の作戦室に置きっぱにしたことないよ」
「せやんなぁ」
今度は壁からの手を伝ったスコーピオンが生駒の耳横に向けて飛び出してきた。
間一髪で躱したが、ゴーグルの少し下にある頰からわずかにトリオンが漏れる。
「ちょっと低かったなぁ」
「ふんッ」
「あだ」
が悔しそうな顔をしている隙に胸元に弧月を突き刺しトリオン供給器官を破壊する。少しずつヒビが入る顔は何か言いたげな目をしたまま砕けベイルアウトとなった。
「……今日こそ聞くで」
個人戦なので誰もいないフィールドに改めて誓い直し仮想戦闘空間を離脱して、ボスンと落ちたベッドの上で深く力強く息を吐いた。
「邪魔するで」
「邪魔すんなら帰って~」
「おお、まさかその返しが来るとは」
「一回言ってみたかった」
学校ジャージを着てスマホをいじっていたが、生駒が部屋の前に来たのを合図に顔をあげる。隠岐と並べば軍配は向こうに上がるがそれでも整った顔をしていると思う。あまり笑わないからクールに見えると女子に人気だが、実際は魔法の呪文みたいな単語を探したり人の会話で勝手にしりとりを始めたりするバカな男だ。そこが気に入っているのだけれど。
「見てこれ。バーキンのナゲット無料券当たった。行こうぜ」
「ええけど待って。聞きたいねんけど」
「それは移動中には話せない内容?」
「まあ、そんな事はないか」
「じゃあ行こうぜ」
「おん」
またしてものペースに乗せられている気がする。しかし『顔を見るだけでムカつくから』みたいな最悪な答えを想像すると聞くに聞けないので無理に流れを切れないのも事実だった。
「なんか生駒と二人で飯行くの久々な気がする。嬉しいなぁ」
「せやな」
「俺適当に誘うから無理ならちゃんと言ってくれよ」
二人の時はよくしゃべる。どれもしょうもない内容だから学校で女子から普段どんな話をしているのか聞かれても覚えていない程だ。隠しているわけではないから恨まれるいわれはないのに。許すまじ。
「ん?どうした」
「今思い出し怒り抱いてん。お前のせいで女子に嫌われたかもしらん」
「よく分かんないけど絶対俺関係ないんだろうなぁ」
生駒とは対照的には楽しそうに笑う。
「生駒の魅力に気付かないなんてクラスの女子たちは勿体ないよなぁ」
「急に上げてくるやん」
「ただの事実だよ」
の言葉には裏表がない。だからこそ彼が言う「可愛い」「美人」の言葉に下心がないと人気なのだ。確かにに褒められるとつい乗せられてしまうのは生駒も同じだった。
「生駒さえよければ、明日も個人戦やろう」
「最近多いな」
「他に予定があればそっちを優先して。また俺と相手してもいいと思ったら連絡くれ」
「別に明日でも明後日でもええけど」
「本当?じゃあ明日も明後日も。俺が納得いくまで相手してくれよ」
「なんや情熱的やなぁ」
は笑って頷いた。そうだろうという声は弾んでいて楽しそうなので、生駒は今日も聞きたいことが聞けず仕舞いだ。せっかくの楽しそうな顔を困らせたくなかったから。
***
「とは言えよ」
毎度毎度首を狙われる。団体戦の時こそ普段通り罠を中心にした戦法を取るようになったが、やはり個人戦となるといつも真正面からの突撃のみ。
「なんで急に阿保になるん」
「絶対こうするって決めてんだ。俺が最初に惚れたのは戦ってる時だから」
はて、今この男はなんと言ったか。
脳が勝手に思い出そうとしている。
目の前には弧月を構えた男が迫っているというのに、脳と耳はさっきが吐いた言葉の意味を探していた。
「おっと」
足を通じて放たれたスコーピオンが生駒の両足を仕留め動きを封じられる。力づくで引き抜いても先にを仕留めてしまえばトリオン切れになる前に終わらせられる。もしくはこのまま向こうの策に乗って返り討ちにする手もあった。頭を切り替えて対策を考えている生駒に追い打ちをかけるように、は至近距離で旋空弧月を放った。両腕を振り下ろしていなすが視界の先にはもうはおらず、探すより先にふと視界の右端に光を感じて──
「今回は俺の勝ちだ」
スコーピオンが切ったのは生駒のゴーグルだけだった。今のは首が狙えたはずなのに、まるでわざとそうしたかのように。
どういうつもりかは分からないが、まだ負けていないのならと弧月を持ち替え横に振るう生駒を見越していたのか、その肩を使ってぐるりと宙を舞い正面に立った。
「好きだよ生駒。ちゃんと目を見て言いたかったんだ」
正式で正確で正直な
「……随分情熱的やなぁ」
「ハハッ!そうだろう!」
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