馬鹿言うな天才
天候は晴れ。風量が強いためメテオラを撃てば建物が破壊された時の破片が長い間宙を舞うようなそんな状況で、巻き上げられた砂埃が日の光を浴びて輝いていたから、孤軍奮闘の状況と背後の竜巻がよく似合っていたから、だからつい、見惚れたのだと、飽きもせずからかい野次を飛ばしてくる同級生相手に説明しなければならなかった。

「でもよぉ、本当に誰だったのかわらんねえわけ?」
「しつこい。何度も言ってるだろ。B級だとしても隊には所属してないし、あん時荒船先輩もいたから即興のチーム戦だったんだろうなァ」
「ガバガバじゃん」
「うるせー」

人を探すには情報が不足しすぎていることは出水が一番よく分かっていた。いまだ野次を飛ばし続ける外野の声に耳を貸さないよう必死にあの時の状況を思い出す。


太刀川隊が防衛任務に当たっていた日、学校が早めに終わったため一足先に本部で待機していた時の事だ。本当に偶然、ランダムに映し出されるブース内の映像にその男が映っていた。荒船の物より少しつばの長い帽子をかぶり、深く息を吐いたと思えば、右手に握っていた弧月を顔の横まで掲げ、目前の相手を静かに、鋭く睨んでいた。

「……!」

一瞬で鳥肌が立った。釘付けになって見入っていたところでやってきた太刀川に呼ばれそのままになってしまったのだ。あの時期はボーダー内での流行り風邪もあって防衛任務の入れ替わりが激しかったため、予定表から日付の割り出しが難しかった。おそらく学生だろうが、ばらばらな時間帯を狙って本部を歩き回っても出会えない。正直手詰まりだった。


「ゔ~ん…」
「もう諦めろって」
「そうだよ。それにそんな前の話なら出水先輩が勝手に美化しちゃってるのかもしれないでしょ~」
「やめろお前ら!逆に今会ったらそれはもはや運命だぞ?」

せっかく思い出していた面影を消されてたまるかと二人と距離を取ろうとして背後を通る人影に気付くのが遅れてしまった。

「あ、わり」
「すみませ──」

目を丸くして固まってしまった出水を見て、青年は申し訳なさげに、しかしどこか意地悪な顔で笑っている。

「今の流れだと、俺が『運命の相手』になっちゃう?」
「……はい」

はい、その通りです。
なんて勝手に言い出さなくて良かったとぐちゃぐちゃになった出水の脳内はそれだけを思った。

「何絡んでんだ出水」
「うわ、荒船先輩」
「なんだ『うわ』って」

聞き流さなかった声ににらみを利かせる荒船に曖昧に笑って返したのは、今ようやく出会えた『かの人』の名前を聞き出したいからだ。そんな出水の心情を知ってか知らずか、荒船は男の肩に手を置き「」と呼んだ。

「先集まってるカゲたちが急かしてくる。早く行こうぜ」
「おぉ。じゃあなー」

ニカッと効果音がつきそうな爽やかな笑みを向けて二人はブースへ駆けて行った。残された出水の驚きのあまりただ茫然と目を見開くだけの表情に米屋と緑川は大いに笑った。


   ***

不思議なことに、あれだけ探しても見つからなかった『』はあの日以降見つける頻度が高くなった。

先輩」
「お、出水君じゃん。お疲れ~」
「お疲れっす」
「そういえば出水君ってA級だったんだな」
「あぁ、まぁ一応」
「それ謙遜か?さっき知ってビビったよ。あの太刀川さんと組んでるA級1位。哲ちゃんも意地が悪いよぁ。もっと早く教えてくれよって」
「自分で言うのもなんですけど、逆に今まで知らなかったのがすごくないっすか?」
「はは。学校が忙しくてなかなか来られなくてさ。大きい声では言えないけど、息抜きとしての趣味活動みたいなとこもあるし」
「『息抜きでボーダー活動』ね……」
「あー……ごめん、感じ悪いよな」
「ん、いや、まぁ人それぞれッスから」

そうは言ってもやはり面白くはない。の言葉はまるで言い訳みたいだし、息抜きなんて、B級に上がろうと頑張っているC級達に失礼だ。きっと顔に出てしまっていたのだろう、は本当に失態を犯したという様子で肩を落とし、もう一度「ごめんな」と繰り返した。

「いや、そんな……」
、もう来てたのか」
「哲ちゃんからの呼び出しとあればすぐ来るさ」
「悪ィな忙しいのに」
「いや俺もいき──勉強くらいしか教えられる事はないしな。その代わり後で一戦だけ付き合ってくれよ」
「1試合でいいのか?」

出水への配慮か、言葉を濁して荒船と食堂の一席に向かった。そこには進学組の面々が集まっており、の登場を歓迎しているメンバーの中には王子や倉内も集まっていた。彼らが教えてもらう立場にあるなんて。

「あいつは県下一位の学校の進学クラスだからまぁ頭がいい」
「へっ?」
「俺が大学に入れた理由の一つでもある」
「太刀川さんいつからいたんですか」
「お前があいつと話しながら一喜一憂してる時」
「じゃあほぼ前半からっすね」

出水の持つ『がり勉君』のイメージとは乖離しているが、しかしボーダー活動を個人の気分転換に行われているという事実にはがっかりした。ストレスの発散なら他にいくらでも手段があるのに。

「懐かしいなぁ。高校受験の時はすごい荒れようだった『哲ちゃんと同じ高校に行くんだ』つって。結局ボーダーを辞めさせない事を条件に今の進学校を選んだらしいけど」
「詳しいっすね」
「まぁな。前に『トリオン量も実力もそこまであるわけでもないし、ボーダー辞めて同じ学校を選べば?』て言ってキレさせたことがある」
「そりゃキレ…というかあの人キレるんですか?」
「おぉ。結構熱い奴だよ」

出水が喋ったのはほんの数回であるが、いつも爽やかに笑っているためそれ以外の顔が思い浮かばない。

「まぁ同じ弧月使いとしか話してる事も見ないしなぁ。だからさっき出水が話してて驚いたぜ」
「そういやいつも俺から話しかけてる気が……」
「それより、さっき忍田さんが俺達のこと呼んでたぜ」
「は!?それを先言ってよ!」

バタバタとエレベーターへ向かう途中、真剣な顔で問題集と向き合うの横顔を見て、初めてを見つけた時と似た感情に襲われた。

「なんか胸が痛い……」
「仮病か?」


   ***

それからしばらくの姿を見る事はなかった。元々交流が頻繁にあったわけではないし、今までだっていないようなものだったから何の支障もないが、それでも今日も見なかったなというわずかな落胆はあった。そんな状況が続き、期末試験も終え冬休みに入ろうという時期には荒船と共に現れた。とても疲れた様子が心配になって思わず声を掛けたが、は前と同じく爽やかな顔を作って笑うだけだ。たいした会話もできないうちに村上に呼ばれブースへ入ってしまったためシューターの出水は文字通り蚊帳の外状態になってしまった。

「いいなあ」

時々映像に映る達は常に何かを話しているようで、その中でも大口を開けて笑っている。そしてまた出水が惚れ込んだ構えをして真剣に剣を振うのだ。

「よォ、弾バカはまたストーカーか?」
「違え。たまたま会ったから声かけただけだ」
「それ言うと余計ストーカーっぽいな」
「うるせ!」
「まぁ分かるぜ。ここ最近勉強が忙しくて来られてなかったもんな」
「ん?ああ」
「なんだか、学校の成績が上位30%をキープしてないとボーダーへの出入り禁止って親に言われてんだって」
「お前……なんでそんな事知ってんだ?」
「うちの隊長が意外と親しかった。なんか手合わせする代わりに勉強教えてもらったりしてるらしくてさぁ」
「いいなぁ……俺も弧月使いになろうかな……」



「お、出水君。さっきは中途半端になっちゃってごめんな」
さんちーす」
「久々だなァ米屋君」
「そっすね」
「なんかさっき俺の名前聞こえた気がしたんだが?」

にやりと笑う顔は、初めて向けられる。惚けて言葉にならない出水に代わって米屋が楽しげに言った。

「こいつ、さんの刀構える姿超カッケーって言ってました!」
「!?おい!」
「あぁあれね。止めようかと思って。哲ちゃんが無駄な動きって言うからさ。でもまァ出水君がそう言ってくれんなら別にこのままでもいっか」

なんてまさ爽やかに笑って。さも希望があるような態度は勘弁してほしい。




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