理由があれば
「ワーカーホリックもここまでいくと称賛に値しますね」
「おや、君。君こそ朝は苦手じゃなかったかな」

唐沢さんが腕時計を覗くより先に「5時57分ですよ」と教えてあげる。丁度俺もスマートフォンを確認したところなのだ。

「まぁ、僕は夜に出勤してきたからね。ワシントンにいるお得意さんとテレビ会議をしてたんだ」
「ワシントンは今お昼過ぎですか?」

欠伸ながらにご名答と言われ、こちらもつい伸びをしながらありがとうございますと気の抜けた返事をしてしまう。

「君は何故ここに?」
「昨日は大学が休みだったので一日中防衛任務に出てたんですけど、帰るのも面倒でそのまま泊まっていったんです」

朝特有の落ち着いた雰囲気と、恐ろしいくらい静かな本部。そこに正反対な二人が、二人だけが息をしているのがなんとも可笑しくてそれだけで笑顔になってしまう。

「君も十分“こちら側”だよ」

一日中とは、労働環境があまりにも劣悪じゃないかと心配してくれるが、俺場合、近界民を撃ち落とすのは完全に趣味活動だ。無料で遊べるシューティングゲーム。その例えが気に入ったのか、唐沢さんは声をあげて笑った。

「折角だから一緒に朝食でもいかがかな」
「お生憎ですが本部の味が合わなくて。外に行き付けのお店があるんです」

7〜9時までのわずかな時間だけ頼める朝食セットがお気に入りで、こうして徹夜明けの体を引きずって向かうのが恒例となっている。
食事の味はもちろん、人のいない店内できれいな庭を眺めるのが目の癒しとなっているのも俺があの店を好む理由だ。

「へぇ……そんな店があるなんて知らなかったな」
「とてもいい店ですよ。まぁおかゆ専門店なので人に勧めたことは、ありませんが」
「おかゆ専門店?おかゆだけなのか?」
「専門店、ってそういう意味でしょう。もっとも、ランチは色々置いてますが、朝は本当におかゆと、端っこにそえられた漬け物だけしかありません」


鰹節茶漬けが好きなのだと言った。店員が注文を受けてから目の前で削るらしい。本物の鰹節を初めて見たのはあの店だという彼は既に心ここに在らずと言った様子だ。

「専門店ってのはかなり経営が上手くないとやっていけないと思うんだ。それもタピオカなんて流行りものならまだしもおかゆとは大変興味深い。資金運営を任される身としてはぜひ研究しに行きたいな」
「なら俺は言い出しっぺとして唐沢さんをお店まで案内しますよ。さて、そうと決まれば早く行きましょう!」

お気に入りの席がなくなってしまうと足早にエレベーターへ向かうを追いながらいい一日の始まりを感じる。
先週は侵入禁止区画に人の出入りがあると告げたと共に、ボーダーの責任者としてともに区画を歩いて回った。
その前の週は桜の隠れた名所を見つけたが一人だと怪しまれそうだというに付き添って立ったままの花見をした。

「……さて、早く追いかけないと」

何でもいいのだ、理由さえあれば。
臆病でずるい大人がふたり、一緒にいるだけの理由があれば。







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