とくとく
「あ!士郎じゃーん」
「うわ、」
「ボーダーで会うの初めてだよな!なんか得した気分~」
「最悪だよ。頭撫でないで」
防衛任務の前に軽く食べていこうと食堂へ向かった時だった。菊地原に駆け寄る赤毛の男の子を歌川は知らない。高校の友人などそういないから中学校以前の人だろうと失礼な事を考えていることを菊地原は知る由もない。
「相変わらずどんくさそうだし、まだボーダーにいたんだ」
「こら菊地原」
口の悪い菊地原を咎めるも言われた当の本人は微塵も気にしていない様子でケラリとしている。
「相変わらずだなぁ士郎、大丈夫?友達いる?」
「……いるし」
「不安になる間だね」
「大丈夫、確かに少数だが友人はいるよな」
助け船のつもりだが菊地原は不機嫌な様子で歌川をじっとりと睨む。そりゃそうだ、少数とか言われてるし。
「そうですか!安心しました。貴方は先輩の方ですか?」
「いや、同じ風間隊の歌川だ。よろしく」
「なるほど、僕はです。こっそりB級やってます」
へこへこと挨拶をする二人に違和感を覚えるのはこの中で菊地原一人。面倒くさいとため息をこぼしつつも歌川の品格とのプライドのため補足する。
「歌川はぼくと同い年で、はぼくの従兄弟で18歳だよ」
「は……?す、すみませんっ俺……!」
散々タメ口で話していたものだから歌川はサッと顔色を変え謝罪した。チームメイトの品格は守られた。
「へぇ士郎と同い年なんだぁ。あまりに大人っぽいから2個下には見えなかった!」
どうやら従兄弟にプライドはなかったらしい。いまだ申し訳なさそうに眉を下げる歌川に気にしないでと手をひらひらさせ笑う。
「そろそろ行っていい?ぼくらみたいに暇じゃないんだけど」
「あぁそっか!長々と引き留めてごめんね~今度ピーマンの肉詰め作ってあげるからっ」
「それなんの嫌がらせ?」
菊地原にひらひらと手を振ったは「歌川君もまたね」と蚊帳の外にいた歌川に人懐っこい笑顔を向けた。
「素敵な人だな」
「うわぁ、歌川って誰にでもそうなの?」
「本っ当、お前とは似ても似つかない優しそうな人だ」
***
「おや。歌川くん、だっけ」
今日は土曜日。防衛任務のためボーダーに来た時だ。後ろから名前を呼ばれ振り向くと何かの資料だろうか、分厚いファイルを抱えたがいた。
「さん、こんにちは」
「名前覚えててくれたんだ。嬉しい~」
へにゃりと笑った顔はやっぱり菊地原の身内とは思えないほど毒気がなく、つい歌川も頬が緩む。持ちますよとファイルを受けとると申し訳なさげに礼を言われまた頬が緩む。こんなところ菊地原に見られでもしたらどれだけからかわれることか。慌てて気を引き締め直しどこへ運ぶのか問うと丁度那須隊の元へ向かうらしい。熊谷さんを呼びに行こうとしてたので丁度いいです、と言えば少しは罪悪感も軽減したのか、またにこりと笑って歌川を見上げた。
「歌川君はお友だちが多いんだね 」
「え?」
急な話題で反応が遅れてしまう。が言ったことを頭で反芻してあぁ、と納得する。
「熊谷さんたちとはよく一緒にバスケをするんです」
「いいですね!楽しそう!」
「さんは普段何をされているんですか?」
「趣味でお菓子作りを。よく士郎と一緒に買い物に行ったりするんですよぉ」
「え。菊地原と?」
「はい。どうして?」
「いや……今まであいつの口からさんの話を聞いたことなかったから……」
失言だったかな、と思ったが本人にはそれが面白かったのか書類を揺らしてからりと笑っている。
「僕も士郎みたくお友達は多くないから、頻繁に遊んでるんですよ。だから多分お友達の多い歌川君には身内といる、なんて言いづらいのかもしれません」
そもそも口数の多い方じゃないし。と言うがそれが主な理由だろうと二人で頷いた。
「買い物、いいですね。俺も是非ご一緒したいです」
友人がいないからと言うが、歌川にしてみれば休日にと買い物にいく菊地原の方がよほどいいですね、だ。
そんな事を考える自分の気持ちを素直に口にしたら、は驚いたように目を丸くした。
「そういうことさらっと言えるとは……」
「ん?」
どういう意味か問う前に足は目的地へと到着していた。もう少しのんびり歩けば良かったと苦笑いを浮かべるが少し下方にある彼の顔はもう作戦室の入り口を見ていたから気付かれることはない。
「歌川君、お手伝いありがとうございます」
「いえ、このくらい」
「正直重かったから、とても助かった!」
そうだったのか。それならば素直に助太刀を求めれば良かったのに、変に隠すところが菊地原と似ていてつい口角があがった。
「お礼なら、今度さんが何かお菓子を作ってくれたら嬉しいです」
チームメイトを習った図々しい物言いに何故か彼は嬉しそうに笑って手を振った。
「あいつ作るだけ作っていつも僕にしかよこさないから」
あげる友達いないんでしょ、とお前がいうのか発言が投下されたのはその翌日の作戦室でのことだ。
***
「歌川くーん!」
「さんっ」
こちらへ駆け寄るは窓から入る光に照らされた赤茶色の髪がひょこひょこと跳ねていて、その姿がランニング途中に見かけたドッグランの子犬を彷彿させた。
「?何か楽しいことあった?」
「あっいえ」
顔に出てしまったかと口を覆う。彼は特に気にした様子もなく「さっき士郎に渡しといたから!」と言った。
「本当にお菓子作ってくださったんですか」
「うん!ぜひ食べてください」
深々と頭を下げられつられて歌川もお辞儀をする。満足した様子で手を振り去っていくを見送り歌川も作戦室まで早足で歩いた。浮わつく心臓に、もう知らぬ振りはできそうにない。
とくとく
「どうしたの心音あげて」
「今ほどお前のサイドエフェクトが憎いことはないよ……」
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