21歳お泊り会
ごちゃごちゃした夢を見たが、目が覚めてみるとそこは案外シンプルだった。
起きて一番に目に入るのが風間の後頭部でも、最初こそ驚きはしていたが今ではの当たり前にまでなっている。
いまだ寝ぼけ眼のは風間の短く整えられた柔らかな髪をくしゃりと撫でてからずる、と鼻をすすり毛布を肩までかけ直す。外はまだ暗いから、もう少し眠れそうだと欠伸をして、何かに気付き体を起こした。
「雷蔵もう出勤?」
「ごめん、起こした」
ううん、美味しそうな匂いと音で起きたんだ。正直に伝えると二人はらしいと笑っていた。
「二人はまだ寝てるのか」
「うん。蒼也は顔は見てないけどぴくりともしないし洸太郎は大いびきで寝てた」
時計はもう8時を指している。普段なら血の気の引く大遅刻だが沢村さんのご厚意で皆が午後出勤となったのだ。雷蔵はエネドラットの様子を見るために10時前には向かうらしい。
「もまだ寝てれば?連勤で疲れてるだろうし」
「うーん、雷蔵見送ったらまた戻ろうかな」
「そう」
それ以上は特に話をするでもなく、雷蔵は梅茶漬けをかきこんで、レイジはのために柔らかな湯気の立つお茶を入れた。
お礼を言いながらそれを受け取り、まだ昨夜の雨が乾いていない外を見ながら柄にもなくこういうのを幸せと言うんだろうなぁと思いを巡らせた。お茶の湯気がそんな心情を表すようにふわりと揺れる。
「今回の集まりを企画してくれたのは、やっぱ雷蔵?」
「なんのこと」
「俺がさ、色々と雷蔵に愚痴ってたから」
ここ数日はよく開発室を訪ねて相談とは名ばかりの愚痴をこぼしていた。聞き役は決まって雷蔵だ。
「の事情は関係なく、普通に集まりたくなっただけだよ」
「昨日、洸太郎に『引退なんてまだ考えることない』って励まされたよ」
あいつ……とぼやいたのはレイジと雷蔵どっちの声だろう。どちらにせよ今回の飲み会はの自惚れではなく本当に彼を気遣ってのものだった。嬉しさとくすぐったさを落ち着かせようとは静かにお茶を口に含む。
「君がレイガストの調子が悪いからとメンテナンスに来て、直すついでに色々話を聞いて、丁度いいからそれを餌に飲み会をしよう。そう思っただけだよ」
そう言って気遣わせないのも雷蔵の優しさだと知ってるから、あまり深くは追及せずにありがとうと呟いた。
多忙なエンジニアを見送った二人はそれぞれ洗い物をしたり机を拭いたり、特にこれといった会話をするでもなくお互いの用事を済ませるなどで静かな朝を過ごした。
「まだ時間はあるから寝ていていいぞ」
「それはレイジの方だ。俺は昨日真っ先に落ちたみたいだし、久しぶりにみんなの分の朝食を作ってから寝ようかと思って」
そうさせてくれ、とお願いすれば小さくため息をつきながらキッチンを譲る。挨拶をして手を洗い、トントンとキャベツを細かく切っていく。玉狛支部は日当たりがいい。お米をといでサラダは盛り付けて冷蔵庫へ。
達が泊まることを気遣い支部を開けた林道や陽太郎、小南のための簡単ながらクッキーまで焼くくらいにはも料理が好きだった。
全てが一段落した時にはもう10時になろうとしていて、ここを出るまであと2時間以上あるからもう少しだけ寝ようとまた寝室へ向かう。廊下にまでクッキーの甘い香りが漂っていた。
「蒼也、少しつめてくれ」
なるべく起こさないようそっと声をかけて寝ぼけ眼の風間に毛布を分けてもらう。かえって自分の分が無くなるんじゃないかというくらい寄せる姿に笑みがこぼれた。
「あったけ」
「そうだろ……」
本部では見せないとろんとした顔もかすれた声も、何度もお泊まり会していれば見慣れてくる。これは21歳組の特権だ。
アラームをお気に入りのオルゴールに設定して毛布にくるまる。そこはとても暖かかった。
***
1時間程の仮眠を経て、オルゴールによる優雅な起床になるはずがたちを叩き起こしたのはそれより30分早い諏訪のブザーのようなアラームだった。
「こうたろぉ……」
「んー?わりぃわりぃ」
酒やけか煙草のせいかで掠れ声になった諏訪が口先だけの謝罪と手は必死に音の出どころを手探りしている。昨日はそのまま寝てしまったからとシャワーを浴びに行く諏訪の騒々しい足音に風間も不機嫌そうに目を覚ました。
「おはよ」
「おはよう」
いつもは寝覚めのいい風間が今日は上体を起こしたまま固まっている。諏訪の布団を畳み終えて、あとは風間の使っている毛布を畳んでしまうだけなのに一向に起き上がろうとはしない。
「どうした?」
「……」
カーテンを透けて部屋を満たす光が目に痛いらしい。昨日はいつもよりピッチが早かったからそのせいだろう。起きろと伸ばしたの手を掴んでなんとか起き上がらせる。持ち上げるにはかなり重かった。
「……手伝おう」
「ありがたいけど、大丈夫か?」
「お前一人にやらせるわけにはいかないだろう」
「サンキュ。朝食作ってあるから、身支度済ませたら降りてこいよ」
こくりと頷く風間を確認して、あとは早足で階段をかけ降りるのは何も時間に追われてるとかそういうのではなく、単に冬の空気を浴びた朝の廊下は歩くのをためらうほど冷たいのだ。
「うわぁっ」
「おう、悪い」
レイジが手伝ったおかけでダイニングの上にはそろそろ朝食が出揃う頃だ。二人を呼びに行こうと飛び出た廊下で出くわした諏訪はシャワー上がりでまだ髪も乾かさないまま額を押さえながらゆっくりとした足取りで歩いてきた。完全に二日酔いである。
「仕方ねぇなァ。今日は特別に俺が乾かしてやろう」
スムーズな動きでソファーに座らせてドライヤーのスイッチを入れる。綺麗に染められた金色の髪が風でそよぐのがなんだかおもしろかった。
「暖けぇなぁ……また眠くなってくる」
「寝ないで待ってろよ、もうすぐお米も炊けるから」
されるがままに髪をとかされる今の諏訪を見たら、笹森はポカンと口を開けて固まったりするんだろう。そんな想像をするの口はずっと緩んだまま。
「洸太郎の髪思ったよりふわふわだな」
「カピバラの毛とでも思ってたのか?」
「ん?カピバラの毛って柔らかそうじゃん」
「見た目に反して箒みたいだぞ」
レイジが艶々のお米をこんもり乗せたお茶碗を運びながら、今度雷神丸を触らせると約束を取り付けた。
諏訪にドライヤーを片付けるよう言っても大きな冷蔵庫からさっき準備したサラダと茶筅ナス、それから梅干し等々ご飯のお供を取り出した。
「持ってくぞ」
「ありがとう」
ようやく目が覚めたらしい風間がおかずを運ぶ。まだ寝癖ついたままだと手櫛でとかしてやると、諏訪とはまた違うふわふわ感が気持ちよかった。
「なんだ」
「寝癖すごいけどこのまま行くのか?」
「向こうでシャワー浴びるから問題ない」
「寝癖なんかあったってわかんねぇ頭してんだろイテッ!?」
「飯が並んでるんだから暴れるな」
「ふふっ」
A級3位部隊の隊長でもB級部隊の隊長でも、ボーダー最高の部隊でもましてやエンジニアでもない、にとって大切な友人たちと過ごす冬の日の中、この時間を絶対に忘れない。こうしたお泊まり会をする度にいつも同じことを思っている。
「さ、早く食べて支度しないと」
いただきます、手を合わせる爽快な音が暖かな部屋に広がった。
21歳のお泊まり会
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