驕ったツケ
「ああもう無理、死ぬ……お腹痛い……」
「なんだよ、変なもん食ったのか?」
「違う、そういう系じゃない方の腹痛……流血沙汰だよ」
「刺されたのか?」
「それ本気で言ってんなら出水達の保健体育を心配するわ……」
残念だな。おそらくこいつは本気でわかってないぞ。前に米屋と出水は動かない方の体育ではいつも爆睡を決め込んでいると誰かが言っていたからな。俺だって二十歳だしそんくらい常識として弁えてるが、今俺が教えるのはどうかと思うから笑いそうなのを堪えて黙ってる。斜め向かいに座る二宮はすげぇ引いてて尚更吹き出しそうだ。
今いるメンツを紹介しよう。
まず俺太刀川と、と歩いていた出水に用があった二宮についてきた辻と犬飼と犬飼と課題をやるつもりだったらしい荒船と村上に個人戦付き合ってくれと頼みに来た米屋。以上だ。
分かりづらい?知らないな、頑張って読み取ってくれ。
とにかく大所帯となりしばらくは騒がしくそれぞれの目的を果たしていたんだが、終いにゃだれて、高校生組は学校同様雑談に花を咲かせていた。
かれこれ2時間以上こうして話しているわけだが、まぁそれぞれA級とB級と忙しい身。召集以外で大人数が集まれる事はそうないため好きなだけいさせてやろうというのが現場監督である俺(成人済み)の考えだ。恐らく二宮もそうだろうな。じゃなきゃ黙って立ち去っているはずだ。
そして憐れな事にこの空気を断ち切らずにいようと考えるのは俺達の他にもう一人、それがだ。腹が痛いならさっさと帰ればいいのに、自分が帰ると言い出せば出水も付き添う必要になるから言い出せないのだろう。
───何故かというと、最近露出狂というものが出回っているらしく、21時以降は女性隊員は一人で帰ってはいけないと一時的なルールが定められているからだ───
横で楽しそうに談笑する幼馴染に気を使っているは健気でよろしいがそろそろ限界らしい。傍から見てわかるほど青ざめている。あの痛みに関してはどんなものか想像つかないが以前一緒にゲームをしていた国近が凡ミスから俺に負けた時はあれと同じくらい青ざめる程首を絞められた。
彼女は強いと思う。弱音も吐かない、気付いてほしい素振りも見せない。それどころか場の空気を壊さないよう笑ってみせる。そんなが「腹が痛い」というのだからよっぽどだろう。それに気付かないとはわが部下ながら鈍感でバカなやつだ。
「おい、そろそろ帰るぞ。送ってく」
知っていながら黙っているにはもう限界だった。野郎共に雑談の場を設けるよりいたいけな少女を帰してやろう。と思って俺が口を開きかけた時、俺よりも先に痺れを切らしたのは意外なことに二宮だった。
「え?ぜひお願いします……」
よろよろと起き上がるを見てようやく出水がハッした。
「そんな体調悪いなら早く言えよ!」
慌てた様子でプリントやら筆箱やらを鞄に押し込む出水に二宮は「いい」と手で制した。
「お前らは課題が残ってるんだろ」
辻らに見てもらえばいいと言いのリュックを持ってやる二宮に釘付けなのは俺だけじゃない。二宮隊の奴等は突然現れた紳士に困惑しているし、犬飼は一周回って口元が笑っている。
「そんな、二宮さん。リュックまで持っていただかなくても大丈夫ですよ…!」
は出水の腐れ縁で、出水は二宮の師匠だから、今まで全く接点がなかったわけではない。何度か俺たちの隊室で菓子食いながら試合の動きを見返したり、二人が使う仮設空間を設定したりとしていたらしいが、流石に二宮が送ってくれるとは思わなかったんだろうな、すごく困惑してる。
「見るからに体調悪い奴を残す理由があるか」
「最悪トリオン体で帰るので……」
「そんな私用で使うな。タクシー代くらいある」
おや?
「いいですよ二宮さん、俺こいつの家知ってるから」
おやおや?
これは意外な展開になった。二宮は何度も叩いて無事を確かめた石橋以外渡らないと思ってたが。
「……どちらでもいい。が選べ」
「タクシー呼んでくれるなら二宮さんがいいです」
のやつも図々しいな。
タクシーという餌でを送る権利を得た二宮は涼しい顔でのリュックと自分の荷物を持ちロビーに集まる男集団から抜け出した。
斜め前で辻が強張らせた肩の力を抜くのが見える。
一方幼馴染はというと思いがけない伏兵の存在に苦笑いを浮かべていた。
驕ったツケ
「、お前も大変だな」
「はい…毎月来るこの痛みは男性には分からないですよ……」
いや、そっちではなく。
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