私をそう呼ぶ
玉狛とは違う本部の重苦しい空気が嫌いで、支部長からの指示でもなければ出向くことはないけれど、極たまに私から行ってもいいわ、と言う事がある。

先輩!いい加減鏡見てないでください」
「待ってよ藍ちゃん、今日寝坊しちゃってうまくキマってないんだよ」
「知りませんよそんなの!」

廊下まで聞こえる声に呆れを通り越して微笑んでしまう。そう、呆れてよ。

「ちょっと、あんまり木虎を困らせないでよ」
「桐ちゃんっ!」

決して会えて嬉しいとか、そういうのじゃない。

「そんな大声ださなくても聞こえるわよ」
「嬉しいなぁ玉狛から出席するのが桐ちゃんじゃなかったら帰ろうと思ってたんだ」

分かってるわよそんなの。だからあたしが来たんじゃない。

「そういう綿鮎支部はいつもあんたよね、支部ミーティングに来るの」
「他の人は勉強だなんだで忙しいからねぇ。底辺校の俺の出番よ」

“底辺校”だなんて、自分で言って虚しくないのかしら。他の人より少し勉強ができないだけでしょう。

「あの、お二人とも、もう会議を始めたいのですが……ッ」
「えっ!?ちょっと、あんたのせいで恥かいちゃったじゃない!」
「嫌だなぁ桐ちゃん、俺さっきから一言も喋ってないよ??」
「えっ嘘ぉ!?」
「お二人ともッ!」


   ***

角がはえそうなくらい怒ってた木虎も、今は冷静な様子で会議の進行を努めている。正直退屈ね。玉狛はここに出なくても支部長から話を教えてもらえるしここに参加するメリットなんてほとんどない。

「桐ちゃん見て」

小声で呼ばれ、の指差す先に眼を送ると、鋼さんを影にして折り鶴が大量に並べられてる。いつの間にそんな作ったのよ。というかそれ今日の会議資料でしょ。

「バカでしょあんた」

無駄に器用なのが腹立つわ。付け足した言葉に気をよくしたのか、子供みたいにくしゃっと笑って見せた。

「では、今日お配りしたプリントの一番後ろにアンケートがあるので記入お願いします」
「えっ」
「あんたって本当抜けてるわね」


   ***

「お疲れ、小南」
「鋼さんたちもお疲れさま。鈴鳴は部隊全員で参加なのね」
「あぁ、正直太一を一人にしておけないからな」

確かに、会議が終わったら支部が燃えていたなんてありそうで笑えないものね。彼に習って愛想笑いを浮かべてるとロビーの入り口から待っていた人物の声がする。

「いやぁ美男美女の会話する姿ってのは見てて華々しいねぇ」
「何バカなこと言ってるのよ。それよりアンタどこ行ってたの?」
「バイクを取りに駐輪場へ。帰る前に桐ちゃんに挨拶したくてわざわざ中まで戻ってきたんだよ~?」

大きな手で摘まむバイクのキーには以前会った時とは違うキーホルダーがじゃらじゃらとついてて、こういう変化が会わない間の空白をもろに感じさせてくるから嫌になる。

「それじゃあね」
「何よ、乗せてってくれないの?」

外は本部の中より少しだけ涼しくて騒がしかった。遅くまで部活動をやっていた生徒や仕事帰りのサラリーマンが帰路についている。

「だめだよ、二人乗りなんて外見悪いでしょ。それもこんな制服のやつと乗ってる事噂にされたりなんかしたら申し訳無さすぎる」
「……」
「来馬さん、この子の送りお願いします」
「任せて。君も気を付けて帰るんだよ」

ニッと笑って、ヘルメットを被って。
ねぇアンタのそれ、わざとなの?

「久々に会えて嬉しかったよー」
「そうね……」

ボーダー外に出たアンタはいつも、私の名前を呼ばない。顔すら見ようともしない。
あんたがどんな学校に通おうとどんだけ派手な見た目してようと友達なのに。周りの目なんか、私は気にしないのに。

「じゃあね、お嬢様」
「さっさと行きなさいよ」



あんたがキライ。




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