恋人<親友
「うわっ風冷てー!」
「そろそろ学ラン出さなきゃだめかなー」
六限まで耐え続けた腰を大きく伸ばすと全身で秋風が感じられて肌寒いながらも心地がいい。横でローファーの爪先を蹴るはまだ寒いだなんだと言っているが、カーディガンも着ないでワイシャツ一枚なんだから当然だろ。
「学ランの前にカーディガンでも着てこいよ」
「この間引っ張り出したら虫食っててさ、まだ買いに行けてないの」
いつか買いにいくって言って多分いつまでも買いに行かないのを知ってる。前にもローファーに穴が開いたままずっと履き続けて台風の時に浸水やら転倒やらが身に染みてようやく替えたばっかりだ。
「よし、今から買いにいくか」
「何を?」
「ばぁか。流れ的にカーディガンに決まってんだろ」
「付き合ってくれるか!」
「ばっバカ……ッ!」
嬉しさからだろうが、今の誤解を招くような発言をそんな大きな声で言うのは勘弁してくれ。ただでさえボーダー隊員という事で目立つ俺らがそんな耳を疑うような発言をして周囲が放っておく訳がない。群がった野次馬に気付いてないのかは目を輝かせて俺を見ているし俺だけが気付いているという事実が何より辛い。
「誤解を生む発言をするんじゃねぇッ!」
「イデッ」
顔が熱い。赤くなってたら情けなくて嫌だから、せめて見られないよう下を向いたまま早足で校門を出た。槍バカがいりゃあ救済の余地があったものを。
***
本当は緑が一番良かった。髪色とも合ってるし。ぶつぶつとそう言うから、ならそれにしろよと言ってもは何が可笑しいのかニヤニヤして首を縦には振らなかった。
「俺がこの緑を買うとさ、ほら、お前が赤だからさ」
クリスマスカラーになっちゃうんだよ、と笑いを堪えた震え声で言うもんだからつい俺の方が先に吹き出してしまう。笑いってのは感染するもんだ。
結局紺とベージュで並んだあげくクリーム色を購入していた。変なやつ。
「あ。公平、公平」
「あぁ?」
「コンビニ寄っていい?買い物付き合ってくれたお礼に奢ってやるよ」
自動ドアをくぐって中に入ったは一目散にお菓子コーナーに向かった。後を追うように入る俺は入店時に漂うおでんの匂いにやられつい鍋のなかを覗く。
「もうおでんやってるんだな」
「早いよな」
「おでんにすんの?」
「あぁ、お前は?」
目の前につきだされたのはお菓子でも飲み物でもなく棒つきアイス。
「さっきまで寒いって言ってただろ」
「期間限定には敵わねぇよ」
冬が近づくと夏に身を潜めていたチョコアイスが次々と登場するからたまらないとかなんとか。色々話しかけてきたがおでんを厳選している俺にはよく聞こえない。「聞いてんのか?」という声に店員の女の子がクスリと笑って、それにも笑い返していた。
「あ、俺トイレいこ。すみません、お手洗いお借りしてもいいですか?」
「どうぞお使いください」
店の奥を指す店員さんに軽く会釈をしてトイレに向かうに手に持ったものを渡すよう催促する。
こういう抜けた所は太刀川さんといるときと変わらないなぁなんて、あの人の精神年齢が心配になるけど、律儀に店員さんに声をかけるあたりの方が人ができてるとは思う。
「おでんください。あとこれも。会計、一緒でいいです」
***
「ごめん待った?」
「許容範囲内。ほらよ」
「会計済ませといてくれたんだぁ、ありがとう」
「いいよ、俺の奢りだ」
泣いて感謝しろよ、と言い終わる頃にはは既に泣きそうなほど目に光を集めた顔で俺を見ている。
「うぇぇんまじかよありがとぉ!」
「大袈裟だろウゼェなお前!」
人に奢ってもらったことないのかってくらい喜んでいたし、実際その通りだったらしい。俺の奢ったアイスが人生初の餌付けとは。
「ボーダー隊員として働いてるから、俺が奢る側になることが常だし、そもそも放課後まで学校にいることもそうないしなぁ」
冬季限定というチョコのアイスを食べてたと思いきや俺のおでんを「一口ちょうだい」と催促してきた。大根を5分の1くれてやった。
寒いからみんな早々に帰宅したんだろうな。いつもよりも人の少ない商店街を二人してちんたら歩いてると、急にがふんと大きく息を吐いた。
「俺、ベタベタしてるカップル嫌い」
目の前を歩く手繋ぎカップルを見て言ってんだろうな。聞こえないよう声を潜めながらはアイスをかじる手を止めずにそういった。
「なんでだよ、女の子と手を繋げるんだぜ?付き合ってる感じがしていいじゃん」
「あのな、手を繋ぐことで片手使えなくなるし、手汗かくし暑いし何より前後にいる人の邪魔になるだろ。だから嫌い。ところ構わず抱きつくやつは視覚的に迷惑だから嫌い」
嫌い、嫌いってまるでガキか。
「そんなもん童貞の僻みにしか聞こえねぇよ」
「ばぁか、俺モテるんだからな」
かじってたアイスを口の端につけたままうっすら笑ってそう言った。
「モテるって、お前付き合ってるやついねぇだろ」
「今はな。こないだ別れた」
「え、知らねぇ。いつ?」
「先週の月曜日」
「別れたてほやほやじゃねぇか…」
何が面白かったのかなんだそれとか言いながら今度はケラケラ笑っている。それにしても先週の月曜日?先週のと言えば俺はと個人戦してた。槍バカや緑川も集まってきて最終的には四人で大乱闘になったんだ。
横にいるは俺が何を考えてるのか分かったのかかじりかけのアイスを小さく振りながら笑って答えた。
「そうだよ。あの日放課後にどこか遊びに行こうって言われたんだけどさ。『先約があるから』って言ったら『いつもそれだね』とか怒っちゃって。そのまま別れ話にゴー」
「なんだそれ……ただでさえボーダーの仕事で忙しいんだからたまには彼女優先してやればいいのに」
「でも俺、先に出水と約束してたから」
こういうときに見せる真っ直ぐとした目が苦手なんだ。思わず顔を背けたくなる。
「そうかよ。モテる奴の余裕だなぁ」
「クラスの女子に出水狙ってる子多いぜ。俺よく相談されるもん」
「まじかよ、誰?」
「言えるわけ無いだろばか」
「はぁ……もう誰でもいいから彼女がほしい」
「割りと面倒くさいの塊だぞ。お前が惚れ込めば話は別だろうけど」
「へぇ。じゃあ俺に彼女ができたら一番に報告してやるよ」
とか言ったものの、自分の事ながらそんな機会は当分無いだろうとは思う。
「そんな機会当分無いだろ」
「蜂の巣にすんぞ」
エアーメテオラを撃ち込むとエアーシールドを張られ、お互いの手に持った食べ物があわや落下しそうになるまでそんな調子ではしゃぎ続ける。
結局はこうしたバカなことをやってるうちが今は一番心地いいと思っている限り、手を繋いで歩く彼女というものはしばらくお預けだろう。
恋人<親友
でもやっぱり俺の知らないうちにリア充になっていたはムカつくのでリアルの蹴りをいれてやった。
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