いつから
大画面に写し出されるあいつを見て、俺は幼い頃、扇風機の風を浴びながら二人で遊んだテレビゲームを思い出していた。

(本当に、昔から器用だよなぁ……)



家が近いから幼稚園バスの待ち合わせ場所が同じだった。最初の出会いはたったそれだけなのだが、学生時代において家が近いというのはそれだけで幼馴染、腐れ縁というものが発生しやすく、その後もだらだらと縁が切れることもなかった。ましてや親同士が親しくなってしまったため、夏休みには互いの家に遊びに行くような仲になっていたのだ。

「ほら!また俺の勝ち!」
「も~なんで勝てないんだろう」
「お前さ、コントローラー見ながら画面見られるわけないだろ?」
「でもコントローラー見ないと場所わからないじゃん」
「え?感覚で分かるだろ?」



(感覚。感覚で分かるだろ)

自由自在に飛ばすアステロイドと追懐する夏の記憶は、本人の預かり知らぬところで目頭を熱くさせた。そうだ、自分はあの男が苦手だった。思い出したようにその場を離れる姿を、米屋は不思議そうに見ていた。


   ***

「そういえば昨日の試合、も見てたぞ」
「ブッフォッ!!」
「……出水」
「みみみ、三輪ッすまん!」

お茶も滴るいい男、牛乳じゃなくて良かったな。危うく口につくところを米屋に残る僅かな理性が必死に宥めた。まだ死にたくない。

「……あいつ、珍しいな、いつもオペレーター室に籠りきりなのに」
「ほんと、よりにもよってお前の試合を見るなんてなぁ」
「別に太刀川隊の試合を見に行った訳ではないと思いますよ」
「おっ、古寺に奈良坂。相変わらずお前らの学校は終わるの遅いな 」
「そうですか?」
「で、俺達の試合じゃなくて何を見に来たって?」

古寺達の会話を断ち切って話を続ける出水に米屋はにんまりと笑い、奈良坂は何かを察するが、当然口にはしない。今だ分かってない古寺は自分の推測を話し始めた。

「横のパネルでB級同士の試合があったんです。次のランク戦に備えた敵地調査だと思いますよ」

出水さんを見たのはそのついででしょう。さらりと言ってのけるが、これがわざとではないのだからタチが悪い。米屋はさりげなしに口笛を鳴らした。

「ふぅん、オペレーターの真似事なぁ」

口に流し込んだ氷が、派手な音を立てて砕かれた。


   ***

「つまらなそうな顔」

会議室のドアが開いたことには気付いた。だがそのドアをくぐった人物がまさか出水だとは思ってもいなかったから、口に入れた醤油煎餅はバリンと音を立ててかすを溢した。

「……A級1位様が、こんな所に何の用」

これ程の嫌みに気付かないほど鈍くはない。皮肉かよと返そうとしたとき、改めて扉が開き、B級隊員がすっとんきょうな声を上げて突然過ぎる出水の来訪に驚いていた。

「話があるなら場所を変えよう」

出水の返事は聞かず、隊員に本日の練習メニューを渡しトレーニングルームを解放するなど、淡々と支度をして部屋を出て行った。呆気にとられてた出水は置いてけぼりを食らいかけ慌てて追いかける。背中ばかりでその表情は見えない。


   ***

どこに行くつもりなのかは分かってる。は空が好きなのだ。小さい頃から公園のジャングルジムに登っては5時の鐘がなるまでじーっと空を眺めていることだって珍しくなかった。その度に出水はそんなことよりサッカーでもした方が楽しいに決まってると思いながら、しかし置いていくこともできずに傍でボールを蹴っていた。
カン、カン、カタタンッ、カン、カン……
鉄製の階段を上る途中で前を歩くの躓く音がよく響く。大丈夫かと声をかけても、返事は返ってきそうもない。
屋上に繋がる重い扉を開けて辺りを伺い人がいないことに安堵する。


「で、話って」

手すりに掴まり出水ではなく空を見ながら問う彼の周りを、風は心地良さそうに吹いている。風になびく髪のせいで表情は窺えないが、少なくとも笑ってはいないんだろう。
しばらくはそんな彼をぼんやりと眺めていたのだが、屋上に吹く風を一度大きく吸い込んだ。なんとなく、今誰か来てしまってはもうこんな、二人きりで話すことは二度とないような気がして。
単刀直入に言おうと腹を括って、柄にもなく震える喉を隠すよう声を張った。

「やっぱりお前、ボーダー隊員に戻れよ」

手すりを掴む手が、ひくりと揺れた。

「オペレーターだって立派なボーダー隊員の一人だろ。失礼なことぬかすなよ」
「でもお前、」

今の仕事に誇り持ってるか?

彼はこちらを振り返らない。それが余計に不安な気持ちにさせるのだが、かといって、今自分はどうしたらいいのか分からず、彼の反応を大人しく待った。出水にとっては一分とも一時間ともとれるような長い時間を待った。

「……トリオン体で受けた傷は、どんなに酷かろうと放置しようと、元の体にはなんら影響はない」

分かってると思うけど。
右手はストンと手すりから落ちた。

「でもさ、生身で受けた傷、後遺症のような傷は、トリオン体でも現れるんだよ」

知ってた?
左手は手すりに添えたままそれでもは片目で出水を覗く。

「今の俺じゃもう、あの場に立つことなんてできないんだよ、公平」
……」

今も変わらず、手の届く所にいるのに、幼い頃に見たあの笑顔は、もう見られないのだと悟った。



右目は、眼帯で覆われた左目の分も補うように涙を溢していた。




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