一歩先行く
<、あまり突っ込むな…!>

無線に返事はない。舌打ち一つ打ってただスコープを覗く。

<奈良坂、お前こそどこ行ってんだぁ?>

米屋の声に駆け出そうとする右足をなんとか制止させ深く深呼吸をする。今の奈良坂は完全に取り乱していた。

<……すまない。元の陣形に戻る>

無線の向こうから月見の露骨に呆れたため息が聞こえて我に返った。

<奈良坂君、彼の向かった方角は敵は多く味方陣営は少ない。必ず救援に向かうからその前にここを片付けて>
<……っ、>

今はただ心を入れ換え目の前の敵に集中する。米屋の死角に回る敵を打ち落とし、奈良坂の射線を古寺が開ける。普段と変わらない敵でも普段は感じない焦りにじりじりと神経がすり減る思いなのは、この日の防衛任務がB級班との合同であるからだ。

<こ、こちら班の――です!隊長が、先に――て、わた―――>
「おいおい、無線が届かないほど遠くまで行ったのか」

敵を一掃させた米屋と合流し、オペレーターの指示を待っていたが、この間も苛立ちのようなものを感じて気が休まらない。

「心配すんなよ。最悪ベイルアウトだ、死にはしない」
「あぁ……」
<君はともかく残りの二人が心配ね。手の空いた二人は向かって>
「奈良坂了解」
「米屋了解」

悟られないよう冷静を装うが、それさえも見抜かれていることを今の奈良坂は知らない。彼のことになると本当に集中力を欠くのだから、オペレーター室で肩を竦める月見も気を入れ直し画面に向かった。


   ***

「ァアステロイドッ!」

聞こえてきた声にまた舌打ちをする。

<、右手はどうした>
<メテオラと一緒に敵に食わせて大爆発しました~>
<利き手を使えなくしてどうする。それに他の仲間は──>
<メテオラ!!!!!>

スナイパー故近付けない事に歯がゆさを覚えながら、届くであろう無線に小言を浴びせるが聞いちゃいない。

、戻ったら覚えとけよ」

彼にばかり構ってる場合でないことは重々分かっているし、彼が作戦を無視してあの地点に駆けた事が結果的には物損被害を抑えた合理的結果であることも分かっている。
分かっていてもあの身勝手な行動では班員が可哀想だ。現に彼の班員は既に二人ともベイルアウトしている。

「利き手を失ってもまだ戦えるの?すごいな」
「もしかしたら俺、トリオンが漏出しづらいっつーサイドエフェクト持ちなのかもしれない!」
「聞いたことねぇよそんなの」

そして二人の笑い声。そんな会話を無線越しに聞きながら奈良坂は西側の敵を一掃するが、その射撃速度がいつもより高いことはオペレーターしか知らない。

<それにしても埒が明かない。、突っ込みます>
<なッ、一人でか?>

思わず声に出た心配する言葉に、彼は返事をしない。
いや、奈良坂には聞こえなかった。

「きっと一人にはならないよ」

無線の向こう、彼は楽しげにそう呟いていた。

「バイパー!」

戦いもせずひたすら市街地へ向かうトリオン兵の群の中心へ飛び込めば、思惑通り彼は格好の的となる。あらかじめ仕込んでおいたバイパーを発動させ、仕留め損ねた敵を弧月が迎え撃つ。動くものはすべて切る。この戦法を取るためにいつも人のいない場所で戦うのだが、今回ばかりは敵の数が多すぎた。

「やべっ」

モールモッドのブレードを避けきれず、千切れた左足はむなしく落ちてキラキラと光りながら消えてしまった。

「……」

体制を立て直そうとついた右手はとうに失っていたことを忘れ、そのままむなしく転んでしまった。

「あぁあ」

ベイルアウトかな、痛くないと分かっててもトドメを刺されるのはやっぱり嫌だなぁ。色々な考えを巡らせながら腕を振り上げるモールモッドを見つめていたが、その腕を振り下ろすより早く、幾千の光となって姿を消した。


「気は済んだか、厄介者」
「間に合ってくれて良かった」

勝ち誇ったようで、安心したように笑うその顔を見て奈良坂は目を丸くする。

「いつでも追ってくれると思うなよ」

そうだ、いつだって背中を追うのは奈良坂の方で。小言でも言わないとは振り返ってはくれない。そろそろ追うことを止めてしまうかもしれなくて。

「奈良坂が追ってくれないなら、俺は立ち止まって奈良坂が来るのを待たなきゃなぁ」
「……何故」
「だって奈良坂がいないと俺は無茶できないから!奈良坂は俺のピンチを必ず救ってくれるから」

いつだって相手の目を見て話す彼の瞳がとても近い。あぁそうだ、今はスコープ越しじゃない。

「……協調性がないのは問題だぞ」
「だから奈良坂しか来てくれないんだよなぁ」



そして奈良坂は射程距離から離さぬように、これからも追い続けなければならないらしい。




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