酔っ払い回収タクシー
「なぁ頼むよさん」
「嫌だよ毎回毎回……どうせオールで三次会行くんだろ。そのまま引きずってけ」
「そうは言ってもさぁ、小柄だけど重いんだよこれがっ」
「というか迅も酔っぱらってね?まだ未成年じゃなかった?」

ソフトドリンクだけですよーという声が明らかに酔っ払いの声だ。まぁ自分も酒は律儀に二十歳から始めた訳ではないし細かいことは言わないが、時刻は12時を回ろうとしている。こんな時間に呼び出すとはタクシーと勘違いしてる節があるのが腹立たしい。

「ならそこら辺に捨て置け。明日は土曜日だし問題ないだろ」
「今日は随分手厳しいなぁ……太刀川さんー」

家で作業音代わりにつけていたバラエティ番組は消した。電話の向こうがそれを越える騒がしさのため、電話をスピーカーにすれば一人暮らしの静かな部屋はいらんほど賑わった。

「おーう、聞いたぞ、渋ってるんだって?」
「慶ィ!前言ったよなぁ『今回限りだ』って!どうせまたお前が煽ったんだか盛ったんだかしたんだろ!」
「人聞き悪いなぁ風間さんが勝手に飲んだんだよ」
「なら尚更放っておきゃいいだろ。迎えには行かん」

電話の向こうでは「本気だ」「怒ってる?」なんてガヤがはっきりと聞こえる。酔っ払うと声量の調整が効かないのは誰だっておんなじだ。

「本当に来てくれません?お願いしますよ」
「敬語でもだめ。今から車出すの面倒くせェ」
「今度の防衛任務変わるよ。太刀川頑張る」

今どういう状況なんだ。迅と慶の間で携帯がくるくる回されているのだろう。
少し遠いところで「返せ、迎えは要らない」という弱々しい声がする。あぁまったく……

「防衛任務変わるのと、来週分のレジュメ、俺の分も貰っておけよ」

渋々、本当に渋々免許証と鍵を握って家を出た。


   ***

!こっち!」

店に入った途端漂うアルコールの匂い。これだけで酔えそうなもんだ。
普段よりも幾らか愉快そうな慶を目印に店内を進んでいくと、角の座敷で太刀川たち3人が机いっぱいに酒やら飯を広げている。つーか何で俺誘ってくれねぇんだよ腹立つなぁ。

「蒼也、蒼也帰るぞ」

罪悪感からか、壁際の席で船をこぐ彼の前には沢山の水が置かれている。立ち上がるときにこぼしてしまわないように避けながら声をかけると、言葉にもならない声がぼそぼそとだけ返ってくる。

「一人で帰れる」
「おいここまで来させといてふざけんな」

怒るな。側に置いてあった水を飲んでひとまず深呼吸。確実に首を痛める体制でうたた寝をする蒼也が本格的に寝てしまう前に連れて帰らねば。21にもなって情けないとは今は言うまい。

「ほら、体起こして水飲め。送ってくから」

何を言っても動きやしない。あげく、ぼーっとした顔でこちらを見つめているだけだ。

「ん」

と思いきやだらりとしたままの腕をこちらに伸ばされる。なんだ、何がしたいんだ。

「おこしてくれ…」
「に、21にもなって情けないッ!」

迅が爆笑し太刀川が吹き出した。
どんなに睨んでも酔っ払い二人には通用しない。勘弁してくれと言いながらも結局言われた通り引っ張り起こしてやるのだが、あぁきっとこれ、3日コースだな……

「いやぁ2日強ですよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってるー」
「風間さんも損だよなぁ。こんだけ酔ってても記憶残っちゃうんだもん」
「何で俺が被害者になるのかないつも……」

これだけ酔っぱらって腑抜けていても飲んだ時の行いは覚えているタイプらしい。
だからこうして俺に世話をかけたこともはっきり覚えている。タチが悪いのは飲んだ翌日に俺を見ると己の醜態を思い出すからと避けてくるのである。とんだ弊害だ。礼くらい言え。まるで余計なお世話だと言わんばかりのシカト具合を見ていつも俺は、次こそは、

「次こそは迎えに来ない。マジで誓う……!」
「それ前も言ってたね」
「うるせェ!って蒼也、ちゃんと靴を履けっ」
「んん……」

太刀川達にも手伝わせてなんとか車に運び込む。

「今度隊の部屋に美味しい羊羹置いといけ」という文句に、小さな声で「わかった」と返事をした。

「お前が嫌いだったら迎えになんか来ないのに」という文句には、ただ黙ってうつむいたまま。残念だな迅、サイドエフェクトよりもあと数日延びそうだ。





「風間さんのあれはわざとかな」
「いやぁ、実際酒に弱いからマジのダウンでしょ。ただ」
「ただ?」
「あそこまで甘えるのはに対してだけじゃないか?」
「なぁるほど」




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