「なるほどねぇ」
この部屋で笑っているのは
ただ1人で、雷蔵なんてはそんな何も考えていないかのような
の笑顔を見てむしろ腹を立てているようだった。
「ふざけてないで、真面目に聞きなよ」
何人に何度そう言われようと
は同じように「わかったわかった」と笑うだけで進む道を変えようとはせず、そのまま部屋を出ていってしまった。
夜中の研究室は他の部屋とは異なり力強い照明が廊下まで照らされているため、そこから出てくる人物というのは人けの少なさも相まって否が応でも目立ってしまう。
「こんな時間に、何かあったんですか」
「見つかっちゃった」
スーツのポケットに両手を突っ込んだままの二宮は、研究室から出てきた
を睨むようにして近付いてくる。
はといえばわざとらしく頭を掻いて近寄る男を待った。
「雷蔵に呼ばれたからちょっと面談。最近トリオンの供給量が安定しなくてさ」
「自覚はあったんですね」
「気付いてたのに黙ってたのか。いやらしいなぁ」
「……」
「冗談だよ」
「それで」
「んー?」
が歩きだそうとしたタイミングで再度声を掛けその足を止めさせた。二宮は変わらず鋭い眼光を向けている。
「質問の答えになってません」
「言ったろ。『雷蔵と面談』って」
「『何かあった』から、こんな夜中に面談をしているのでは」
「あぁなるほど」
何かあったか、と聞かれて
は先ほどの深刻な顔の雷蔵を思い出す。同級生として普段はお互い気の抜けた会話をしたり酒を酌み交わす仲なのにこの時ばかりは真剣な顔で膝を突き合わせてきた。
『
、次の遠征に行くのは止めろ』
『どうして』
『お前のトリオン器官とその伝達神経がズタズタだ』
『あらら。そろそろ現役引退か』
『それだけで済まないかもよ。お前の強みはそのトリオンを身に纏った身体能力の高さだから』
『今後何十年の普通の人間としての生活にも何か障害が残っちゃうかもってことか。相変わらず優しいね』
『
』
『今回、玉狛第二の雨取って子が行くんだろ。今までより希望があるみたいじゃない。挫きたくないんだよね。皆の期待感』
「……秘密」
「なんだと」
「だから、秘密。箝口令が引かれてるもん言えるわけないだろ」
「嘘を付くな」
「S級隊員にしか明かされないことなんていくらでもあるよ」
「……」
「悔しかったら"こっち"に来いよ」
二宮の口を閉ざすための言葉。
迅悠一の持つブラックトリガーの選考にも参加しなかった男がS級に興味があるわけもない。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
それなりに長い関係だから、そう言う
の声と言葉に嘘がないのはわかる。二宮は少しだけ強張った顔を緩めて
を見る。
「二宮が懸念するようなことは何っにもないよ」
「……アンタは本当に、分からない人だな」
の普段と変わらない穏やかな笑顔が、今は嫌で仕方がない。
「…秘密」
名なしは誰も傷つけないための嘘をつきました。
それが正しいことだと信じて疑いませんでした。
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