嘘の日



いつもは視界いっぱいの空の碧も、この日は数多の船が停泊しているせいで狭く見えた。何隻とい話ではない、一艦隊はゆうに超えていて、それに加えて上席から個別に指名された将校たちが呼ばれているのだろう。も指名された一人だが、他意かが含まれていることは本人が一番理解していた。

(優しいなぁ黄猿さん。直接な処罰を下されないならおれの部下たちの今後は心配いらないだろう)

責任を取らなければならない。
軍帽を深くかぶり直し水平線を見つめる。後ろ指を刺されても致し方がない行為をしてきたのだ。
はゼファーの行いを故意で見逃してきた。逃げ道を残していたり被害報告を揉み消したり、の関与が疑われる案件は複数上がっているが、実際はもっとあったと囁かれている。はこの手の工作を得意としていたから。

「責任は取るさ」

近付いてくる聞き慣れた靴音には気付かないふりをした。どうかこちらに気付かず立ち去ってくれと願うが、かの男に対しての願いが届いた例はなく、今だってため息を吐くように葉巻の煙を吐き出した男はに背を向ける形で背後にどかりと座り込む。

「こんな所にいたらお前の関与も疑われるよ」
「潔白なもんいくら探ったって何も出てきやしねぇ」
「なんでも偽装ができる時代さ。おれみたいな奴がいるんだから」
「……」

波止場に叩きつける波の音に負けそうなくらいの声だがスモーカーの耳にはかろうじて届いていて、だからこそ普段は口数の少ない男が口を開く。二度とない機会だと両者理解しているから。

「なんであんな事をした」
「どれのこと?」
「……」
「ごめん、わかってるよ。なんでって、先生が間違っているとは思えなかったから」
「本心か」
「嘘。思って"いないから"のが正しいかな」

背中越しに伝わる熱。スモーカーの怒りさえ直に感じるようで不思議と笑みを溢すにスモーカーは更に怒気を強めた。

「テメェはこんなつまらねぇ戦場で死ぬつもりか」
「黄猿さんがそう望んでる。罪を公にされず殉職として扱ってくれるなんて素晴らしいでしょ」
「殉職にはならねぇよ。なかったことになる。お前が今までしてきたようにな」
「それでもいいさ。上司が死んで部隊は解散。部下の面目が立つ」

この同僚は何の目的でいつまでもここにいるのだろう。張り付けた笑顔が剥がれる前に立ち去ってくれるのだろうかとまたしても身勝手な事ばかりを考えて大きく息を吸った。

「まぁ大丈夫、絶対に死なないよ。こう見えておれはそこそこ戦える」
「そうでなきゃあ困る。罪を償うというのなら後ろ指を刺されながらこの海軍のために働いてろ」
「へぇ以外」

「スモーカーは、正義感が強いから」

「俺が死ぬことを否定しないと思ったのに」

立ち上がって、座ったままのスモーカーを上から覗き込む。なぁ今お前、どんな顔してんの?
好奇心に駆られての行為だがすぐに後悔した。目を見てしまうとつい、自分の唇が歪に歪んでしまうから。


「いい奴。お前に会えて幸せだったよ」

偽装工作でもなんだもない心からの言葉だから、これは。



名なしのBは嘘をついた。「絶対に死なないよ」と。そして、寂しそうに微笑むと、大切なひとに背をあずける。その唇が、泣き出しそうに歪んだ。…それでも、君に会えて幸せだった。

#やさしい嘘の話



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