嘘つきで不義理で不器用な友人のついた嘘の数を数えていた。見破れただけでも3つ。でも本当はもっとあったのだろう。そのどれも嘘だと言えなくて、もし指摘できていたらもう少しマシな今を迎えていたのか、なんて、イフの話。
「消太」
名前を呼ぶ声はいつも通り甘ったるいくらいの猫なで声で、自惚れでもなく自分に好意があるのがよくわかる。
「どうした」
わかってはいるが気付かないふりをして、足元にある街を睨みつけながら横に立つであろう
を待った。しかし相澤の予想は外れ、いつまで経っても横に立たない
は相澤の後ろで看板に両足を掛けながら蝙蝠のようにぶら下がり目を閉じている。
「……どうした」
繰り返した問いに反応するようにゆっくりと目を開けて、その目が相澤の双眼とかち合った途端にふっと笑った。
「俺、かなり頑張ってると思う」
「ああ」
「救われたいなぁ」
「……あぁ」
顔こそ見えないが、上ずった声は泣いているのだろう。相澤は前を向いたまま目を閉じて
の嘘になんと答えるべきかを考えたがきっと何を言っても本人には届かないだろう。
の妹は通り魔に刺され殺された。悲鳴を聞いた近隣住民からの通報を受け、付近を警らしていた警察が駆けつけるまで数分だったが、その時にはもう息はなかったという。
『……ヒーローは、お遊戯会に興じていたのか』
同じ時間に発生した大型ヴィランの退治にヒーローが集結していたのだと、後から提出された報告書の写しを握りしめた
から聞いた時も、今と同じく相澤にはかける言葉が見当たらなかったのだ。
「今日もヴィランを…いや、犯罪者だ。大量の犯罪者を捕まえたが、あいつを殺した奴は見つからない」
「犯人が分かってるのか」
「ああ。警察が防犯カメラに映る男を教えてくれた」
「どんな奴なんだ。俺も──」
「ううん。大丈夫。これは俺がやらなくちゃ」
「お前、私怨で動いてないだろうな」
相澤が振り向くとは思っていなかったのだろうか、驚いたように少しだけ目を見開いた
はすぐに困った顔で微笑んだ。
「本当はもう戦いたくないんだよ。疲れちゃったし」
「本当か?」
言うべきではなかったのかもしれないが、疲れたと言う男の目が黒くも鋭い光を宿しているのを見て黙っていられなかった。相澤が自らの発した言葉に怯んでいる間にも
は「本当だよ」と穏やかなままに答える。
「妹は、両親のもとへ行ったんだ。むしろこんなヴィランによる犯罪に溢れるこの世界に一人残されてしまうより良かったかもしれない。部屋に置いてある家族写真を見るたびに、そんな事を考えるようにしてる」
逆さになっていた体勢からストンと相澤のいる屋上へ降りる。不要だろうと思いながらも差し出したその手を取ったから驚いた。思っていたよりずっと細くて冷たい手をそのまま離すわけにはいかないと思って考える間もなく手を引いた。細くなったのは手だけではなくて、前より体幹も弱くなったのか、あっさりと蹌踉めいた
が相澤の方に倒れ込んでくる。
「もうやめてくれ。お前が体を壊したらそれこそ家族に顔向けできなくなるだろ」
もはやこれは願いだ。少しでも耳を貸してほしくてかけた言葉は弱々しくなってしまったが、
は相澤の背中に手を回して宥めるように数回優しく叩いた。
「そんなにさ、心配してくれてありがとうな」
「……」
「もう、やめるから」
互いに体を預けるように密着させて、
が相澤の心臓に向けて放った言葉を、嘘を、もし相澤が追及できていたらとイフを繰り返して新聞の文字を睨みつける。文字など頭に入ってこないが、見出しの文字を見てから直感的に
による犯行だと確信している。
「お前は、昔から嘘が下手な奴だったからな」
嘘だと気付いていて言えなかった身で裏切られた思いを抱くのはお門違いだろうか。喪失感と同じくらい復讐を果たした
に得も言われぬ思いを抱いていることはその後行われた事情聴取でも言わなかった。
「俺は、あいつの 『やめる』という言葉を信じていたので」
あの日以来姿を消した友人を恨めずにいるのは結局どちらも嘘つきだからだ。
【
がついた3つの嘘。ひとつめは救われたいとつぶやいたこと。ふたつめ は戦いたくないとささやいたこと。みっつめは君にすがって、もうやめると言ったこと。/君のついた3つの嘘】
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