友人というにはむず痒く、兄弟子というのは癩であり、色々考えた結果俺と期聖の間柄を表すとしたら“悪友”が一番しっくりくる。
花街に行くときはいつも一緒だし、腹立たしい事に女の好みも一緒なのだ。毎回喧唾の奪い合いになる。剣の腕はもちろん喧唾でも勝てないからなんとか相撲に持ち込みたいんだけど、そんな格好悪い取っ組み合いを女たちに見られたくないと断られ続けている。相撲の何が格好悪いんだ!
結局そのまま二人でもめて、気付いたらほかの男に女を取られてる事もざらに合って、お前のせいだと文句を言いながら二人で飲み明かす事だって片手じや足りないくらいだ。そのたびに十禾殿が『馬鹿だねえ』と言いながら頰を腫らした俺たちに氷囊を差し出してくれていた。
そんな仲だけど、一度だけ、真剣に刀について教えを乞うたことがある。御様御用の任を頂く実力はなく、巻藁ですら綺麗に切り落とせない俺が悩んでいた時だ。いつもの皮肉を言いながらも自分では気づいていなかった癖を指摘して、あまつさえなまくら刀を黙って研いでくれた。話しかけられたら、きっと情けなくも泣いてしまってただろうから、あいつも俺も黙ったままでよかった。
『そういう気の利くところが女にモテるんだろうな』
と言ったのは、その後初めて俺が綺麗に巻藁を切れた日の夜。期聖は『何の話だ』と言っていたがどうせ覚えているんだろう。本当に忘れているのなら、それはもう大歓迎なんだけど。
あの一件以降俺は士遠さんも褒めてくれるくらい急激に腕をあげたが、それはあくまで俺にしてはの話であって、残念ながら段位をもらえるほどの腕も器量もなく、御上からの『黄泉の国に行く』という特別な任務を任されることはなかった。
「ま、この任務で上の席があけばお前でも段位がつくんじゃないの」
「縁起でもない。あ、お前が死んだ後釜ってことか?嫌だなァ死んでもお前の事が頭にちらつくのか」
「いいよ。忘れてくれて構わない」
「……はァ?」
「死んでまでお前との繋がりがあるなんてごめんだぜ。俺が今回のお勤めでおっ死んだら綺麗さっぱり忘れてくれ」
「…おー分かった。お前が戻ってこようとなかろうともうお前の席はねぇからな。お松ちゃんは俺のもんだ」
「ハア!?それは高望みってやつだろ!」
「高望みじゃねーし!お松ちゃんだって俺を見るときの目すっごい色っぽいしぃ!」
「お前…!恥ずかしい男だな。そんなの気のせいに決まってるだろ」
結局いつも通りの貶し合いになって、二人で飲んで。目の下を赤くするだけでなかなか酔いつぶれない期聖と比べて俺は下戸で、酔うと口が軽くなってしまうからうっかり口走ってしまったかもしれない。
あんまりよく覚えてないけど、厳しい声で『そんなこと、ここ以外で言うんじゃねぇぞ』と釘を刺された気がしたから。
ああ流石、きっと俺とお前の一番の違いはその覚悟の差なんだろうな。周りから期聖と俺はよく似ていると言われていたが、俺はそんな事、一度も思ってなかったんだぜ。結局俺は矮小な人間だから、御上の命より大切なものがごまんとあるんだ。
『何を捨てても、死なずに帰って来いよ期聖。お前のいない酒はたいそう不味いだろうから』
あいつの事だから、『忘れていい』なんて言葉、嘘にする気はなかったのかもしれない。
多少は思ってたかもしれないけれど、きっと体に傷をこさえながらもへらりと戻ってきて、『前より男前になったろ』なんて言うことまで考えていたはずだ。少なくとも俺は、そうなるだろうと思っていたのに。
「……つまんねえ嘘つくなよ、絶対に忘れてやるもんか」
せめて亡骸に向かって文句を言ってやりたいのに、それすらもできないなんて。ちくしょう。
【「忘れてくれてかまわない」期聖はある人の立ち位置を守るために嘘をつきました。涙はでませんでした。/嘘をついた】
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