嘘の日



「入るぞ」

ノックをしたが返事がないので勝手に開けた。案の定部屋の鍵はかかっておらず、海の潮で錆びかけているドアが音を立てて歓迎した。

「やぁサボ」
「起きてたなら返事をしろよ」
「寝てたよ。サボの声で目が覚めたんだ」

窓から入り込む潮風がの髪をやんわりと撫で、今開いたドアから抜けていく。この部屋の空気はいつも他の部屋とは違う気がする。そう感じるのは部屋の主のせいか、サボの胸に燻る思いからか。

「ずっと開けてたのか。体冷やすぜ」
「昔から心配性だなぁサボは」
「……そりゃあ、お前とエースが、無茶ばかりするからだろう」

案の定、は顔を曇らせながらも何か大切なものを物を思い出すように目を細めた。

「そうだなぁ。確かにエースはいつも無茶ばかりしでかした」

困ったやつだよ、なんて全く困っていない顔で言うのがサボは嫌で仕方なかった。エースはもういないのに、はまるでまだエースがどこかにいるかのように話すのがとにかく辛くて仕方なかった。何故こんなにも心が痛むのかは、考えてもどうしようもない。

『辛い辛い痛い嫌だ苦しい……!もう救われたいッ!』

の首に巻かれた包帯の下にはあの日、サボが小さな無人島に新聞を持ち込んだ日につけられた消えない傷が隠されている。どうせニュース・クーにも見つからない辺鄙な島だ。伝えなければ良かったと何度も後悔しては、自分の中の見せられない程に淀んだ心が伝えて正解だったと否定する。
だって、あいつの死を伝えたからこそは気が触れて、看病を名目にやっと手元に置けたんじゃないか!

「うるさい……」
「何?」
「あぁ、いや。……今日は具合よさそうだな」

あの頃に比べればもう随分と平常を取り戻している。基地の中であれば一人でも出歩けるし、何よりエースの名前を出しても泣き崩れることはなくなった。
しかし、少しずつ癒えていく傷を自ら抉っているのだから本当のところ救いなんか求めちゃいない。

「そりゃあ毎日サボと一緒にいられるんだからいつまでも落ち込んでられないだろ」
「そうか……なぁ、おれのこと、好きか?」
「あぁ!大好きだよ」

嘘、ではないのかもしれないが、少なくともサボが求めた意味合いではない。今の嘘はサボの首を締め付けた。

「…………全く、許せないな。エース」
「そうだね。弟の為とはいえ俺達になにも言わず死んでしまうなんて」

許せないよ。

どうせそれも、きっと嘘なんだろう。




男主がついた3つの嘘。ひとつめは救われたいとささやいたこと。ふたつめは好きと笑ったこと。みっつめはあの人に向かって、許さないと言ったこと。
#君のついた3つの嘘
https://shindanmaker.com/541416



 back