ご不要の際は捨ててください/スティーブン・A・スターフェイズ

「こんな所で会うとは思わなかったな」
「僕も、まさか覚えていてくれてたなんて思わなかったですよ」

しゃがみ込み、何かを観察していた男は地下トンネルを反響しながら届く声の方に顔を向けてゆっくりと立ち上がり両手を上げた。

「すごいなぁ、穏やかな声なのにとんでもない殺気が肌に刺さります」
「んん?君の思い込みじゃないかな」
「あはは」

新しく作られた鉄道の影響でここは殆ど使われていない。寿命の尽きかけた蛍光灯のせいで顔こそよく見えないが、どうやら笑っているらしい。ふわりと揺れた髪がその光を吸収し光っているようにすら見える。

「そこで何をしているんだい」
「分かっていて聞く行為に意味がありますか?」
「確信が持てないから念のため」
「貴方に嫌われたくないから嘘をついちゃおうかな」
「冗談が通じない場面だってわからないかい」
「ほら、もう答えは出てるじゃないですか」

氷がコンクリートを割り、一気に温度の下がった空気が白く濁る。視界が悪くなっても空気の流れでまだ相手が健在な事は分かっていたが、最優先事項は別にある。

「おい、ザッブ、生きてるかい」
「新手の薬物です。五感が著しく鈍る代わりに超気持ちよくなれるらしい」
「らしい?ますます状況が分からないな」

攻撃は紙一重で躱される。少しずつかすり傷をつけてはいるがどれも致命傷どころか大したダメージにもならない。

「説明したくても避けるのに精一杯で一旦手を…いや足か。とにかく攻撃を止めてください」

が着地した先、その周囲の足場に水の膜を張る。気付かれているだろうが牽制だ。そのうえで話を聞くという条件で。

「俺の雇い主から新規ドラッグの調査を頼まれて追ってたんだ。まぁ結論だけ話すとその売人がキレイなお姉さんでね。感づかれた所、逃走時間を稼ぐためにブスっと」

スティーブンは黙って頭を抱えた。鼻の下を伸ばしてまんまと罠にハマる部下の姿は想像にたやすい。

「成程……申し訳なかった。この男のせいで君が雇い主に叱られないといいけど」
「看病はついでです。ライブラであるこの人の近く留まってれば貴方にまた会えるんじゃないかという下心です」
「………どうして、彼がライブラの一員だと?」
「私用部隊を持ってるのは貴方だけじゃないってことです」
「………………」
「久々に会えてよかった!」

それじゃあここで、僕はあの女を追わないといけないから。そんな簡単な挨拶一つ残して、男は氷をものともせず去っていった。

「ま、また会うんだろうね」

会いたいと願ったわけじゃないがそれはそれ。
煙草を燻らせながらその手の下でスティーブンは一人口角を上げていた。


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