嘘の裏は嘘という/Mr.コンプレス

天気予報を飛び越えて、ニュース番組や平日昼間の報道系バラエティでも取り上げるほどの猛暑によるダメージは、ヒーローだろうとヴィランだろうと等しく襲い掛かりますが、それでもそこはプロのエンターテイナ―として衣装を脱ぐわけにはいかないのでした。
そもそも手品師は種も仕掛けもその身に隠すもの。半袖などもってのほかなのです。

「そうは思わないかい?少年」
「……驚いたな、この一年で一番驚いた」
「まだあと半年残っているのに、もうそんな台詞を使ってしまうのか」
「これ以上嬉しい驚きは、あと半年起きないでしょうから」

月明りを正面から受けた瞳は輝いていて、その中に映るマジシャン風情の男が居心地悪そうに肩を竦めます。

「そうやって相手を喜ばせるような歯の浮く台詞は相変わらずだね」
「心からの言葉なのに」

事もあろうか見上げていた青年は窓枠に足をかけたマジシャンに対し手を差し伸べました。これには流石に驚いたらしく、マジシャン──Mr.コンプレスは目を丸くして仮面の下でにやりと笑います。

「俺が淑女にでも見えたかな?もしくはその手を取った途端、俺の腕に見事手錠がかかるとか」
「そんな力僕にはありませんよ。貴方をここに留めて置くこともできないのに」
「ずっと傍にいてほしいのかい?」
「うぅん、それは少し違うような。貴方の自由な姿が好きだから」

青年の生活する建物の中はとても物が少なく、まるで生活感がありませんでした。今日までどのような生活をしていたか誰にも知るすべはありませんが、体に真新しい怪我がないことを確認した以上、Mr.コンプレスにはそれ以外のことに感心もなかったのです。

「それじゃ、もう行くよ。ここには気まぐれで寄っただけだからね」
「あぁ、」

含みのある声を聴いてしまったばかりに、つい立ち去るための足が止まり、青年が何を言うのか耳を傾けていました。

「……。……自由でいてほしいと言いながらこんなことを言うのはなんですが」
「なんだい、 話だけでも聞こうじゃないか」
「また来年の七夕の日に、こうして会いに来てほしいな、なんて」
「タナバタ?」
「ええ、今日は七月七日。だから会いに来てくれたのかと」
「……」

カレンダーを見るような生活をしていないので今日が何の日かなど知りもしませんでしたが、なるほど、随合と趣向を凝らしたものだと得意げな気持ちになりました。

「突然貴方が空から降りてきたので、織姫が来たものとばかり」
「おいおい、やはり馬鹿にしているだろう。どうして俺が織姫なんだ?」

わざとらしく大きな身振りをつけて話す姿に、青年はやはりエンターテイメントを見るかのように目を輝かせて

「美しさを表すなら彦星より織姫じゃないですか」

と言うものですから、Mr.コンプレスはため息以外の言葉も出なくなり、 最後に一つ、圧縮した玉を青年の額にぶつけ逃げるように空を舞いました。

「いて、あぁ、またお名前も聞けなかった」

また来年も、など、当たり前に次があるような口ぶりの青年に、文句ひとつ返せなかったのです。


   戻