鬼さんこちら/ロシナンテ
「大丈夫だから!大丈夫だから!」
「そういうなよさん!俺のが背丈あるんだから仕事が早いだろ!」
「寝ぼけてんのか!?お前が関わってスムーズに事が進んだ時なんかないだろッ!」
「なんてひどい事を言うん、だァァアア!?!?」
「ばっ……ばかやろおおお!!!」
海軍の基地はなく、駐屯地すら島の端に追いやられるような小さな島でやロシナンテ、その他“黒羽”のブローチを付けた海兵が七夕飾りをしているのは何もバカンスの為ではない。
『この間、巡洋艦が一隻の海賊船の動きを探知してな。普通なら通らない海路を進んでいたらしい』
『確かに。この辺の島の配置を見る限り、どのログポースもエターナルポースもこの海路は示さないだろう』
『あぁ。余程ド下手糞な航海士でも乗せてるのか、さてはいないかだろうなァ。放っておけば餓死だろうが、一つ懸念事項がある』
『あぁ、このまま行くと、島にぶつかる』
海軍本部にある配置記録を見てもその島の海兵はせいぜい島民同士のいざこざを収める程度の人数しかいない上に、定年間近の云わばボーナスステージといった具合だ。腹を空かせた海賊に攻め込まれようものなら一瞬で壊滅だろうとは煙草を吹かしながら言った。そこでもとより遊撃部隊としてのきらいがある准将率いるこの部隊が事前に島へ配備されたのだが。
「タナバタなんて行事今まで聞いたこともなかったが、まったく世界は広いもんだなぁ」
「いたた……あぁ、全く危険な行事だ」
「自分で危険にしてるだけだろお前の場合」
笹ごと地面に倒れたロシナンテを起こしてやりは今度こそ一人で飾り付けを始めた。まだ何か手を出そうとしているロシナンテには子供の相手をしているよう命令を下す。のけ者にするのかというので致し方なく上官命令だと告げればロシナンテもしぶしぶ子供たちの方へ歩いていく。
「全く、あいつは日に日に遠慮をしなくなるな」
センゴクがいれば『誰に似たのやら』とさめざめとした目を向けるだろうが、今ここにいるのは平和ボケした海兵と島民と気の知れた部下だから問題はない。見慣れない形の飾りを等間隔に笹に吊るし、後は先ほど島民に聞いた短冊とやらを飾るだけ。やはり一人でやった方が早かった。得たりやおうと腕を組んだ時、背後から子供の泣く声がした。
「ロシナンテ!今度は何をしやがった!」
「さすがに冤罪ださ…准将!」
殴られてはたまらないと両手を大きく振って否定をするロシナンテ曰く、一人の子供が短冊を無くしてしまったらしい。一年に一度この日の為に用意された上質な紙で予備は無いのだとか。
「泣くな坊主。女の子達が見てるぞ。あん中に好きな子がいたらどうする」
ポスン、と頭を叩いたのは先ほどがもらっていた短冊だ。子供だけでなくロシナンテまで目を丸くした。
「良かったのか、さん。短冊に願いを書くと叶うと言われてるらしいじゃないか」
「あぁいうのは結局本人たちの信仰によるものだろう。否定するつもりは毛頭ないが、俺自身にはあまり関係のない話だよ」
埃だらけの駐屯地屋上では望遠鏡を覗いていたが、ロシナンテが横に並ぶと使っていた望遠鏡を彼に渡しながら言った。
「今の俺は全部願いが叶っていて、あの紙に書くことは一つもないんだよ。ロシナンテ」
「~~。さん、あんたは本当に──」
「ところでロシナンテ、俺が何のために望遠鏡を渡したと思ってる」
「へ?」
「ほれ、覗いてみろ。来てるだろう敵が」
自分たちにナギナギの実の能力を使うよう指示して、腰に刺していた剣を抜いた。突然の雰囲気の変わりように呆気にとられる。
「浮かれているのか?俺達は海賊討伐に来てるんだぞ」
祭りを邪魔しないうちにさっさと終わらせて帰ろう。欠伸しながら月歩で海岸へ走るの背中はロシナンテが呆けているうちにどんどん小さくなる。
「あんたは本当に、ひどい人だ!」
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