貴方と食べたい/カタクリ

ワノ国での行事を何故このトットランドでも行うのかといえば単にママを始めとした家族達がお菓子を囲み盛り上がる為の口実としてだ。現にメインであるはずの笹飾りは会場の端の方に追いやられ見向きもされない。それにしてもまぁ、よくぞこれだけ立派な飾りを見つけたものだ。さすがにビックマムが見上げるほどの笹をこの世界から見つけるのは断念したらしいが、ほとんどの人間はこの笹をはるか上空に見上げなければならない。本来の七夕とはこの笹飾りに願い事を書いた短冊を飾るのだと前に新聞のコラムで読んだ気がしたが、この巨大な笹飾りに見合うサイズの短冊では飾り付けるのに苦労しそうだ。

「何故ため息をつく」
「カタクリ……様」

危ない。つい名前を呼んでしまったがここは他の家族も集まる大広間だ。咄嗟に付け足した敬称に怪しまれていないだろうか。さりげなく周囲を伺ったが皆テーブルに並べられたスイーツに夢中で気がついていないらしい。

「ごほん……失礼しました。カタクリ様のためのお菓子は後でごゆっくり召し上がって頂けるよう別に取り分けておりますのでご安心してください」
「あぁ。それで、お前は何故浮かない顔をしている」
「生憎これが標準装備ですが」
「確かにここ最近ずっとそのつまらなそうな顔だ」

よく見てるなぁ。それが兄としての気質なのか警戒しての事なのかはわからないが、俺を見ていたからなんて理由だったらなんて喜ばしい事か。はき出しそうになるため息をぐっと飲み込んで笑って見せる。

「とんでもない。貴方と並んで歩けるようになってこんなに毎日嬉しいのに?」

そうだ。織姫と彦星は一年に一度しか会えないらしい。ならビッグマムからの許しも得てメレンゲと擬態せず、自分自身として毎日好いた相手の傍に居られる俺は幸せに違いないのに、短冊に書きたい願い事が次々と浮かんでくるのだから欲というのは際限ないらしい。

「ただ遠くて、届かないなぁと思っていただけです」
「……
「短冊の話です」
「ふん。ならお前の代わりにおれがつけてやろう」
「えっ」
「願い事があるんだろう。それもおれに言えないようなものが」
「はは……」

今日はやけにぐいぐい来るな。最近じゃあまり話をする時間も取れなかったし嬉しいには嬉しいが、沢山の弟妹を従えたカタクリがこんな一回の給仕と長時間話していては怪しまれるのではないか。

「願い事なら、たくさん」

カタクリとゆっくり過ごせる時間が欲しい。二人で島の外に行ってみたい。昔のように手合わせをしてみるのもいい。面と向かってゆっくり食事をとりたい。たくさんの美味しいお菓子を一緒に食べたい。貴方に触れたい。

「こんなのは序の口で他にも──カタクリ?」

短冊はぐしゃぐしゃになって床に捨てられていた。景観を乱すごみをすぐに拾い上げ先程までいたカタクリの姿を探し追いかける。

「カタクリ様?」
「それくらいのこと、紙に書く前に直接言いに来ればいいだろう」
「それができたらきっとつまらない顔はしてないでしょうねぇ」

織姫や彦星と違って毎日好いた相手の傍に居られるが、残念ながらあの二人と違ってこちらには身分差があるのだから。

「結局はない物ねだりって事なのさ」

願い事を書くことなくぐしゃぐしゃにされた短冊はごみ箱に捨てた。書かずとも願いは叶うらしい。一足先に自室へと向かったカタクリを追う俺は今、給仕らしく振る舞えているだろうか。


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