成仏!/誓仁
「新年早々作務とは随分熱心ではないか」
「テメェのせいで目が覚めちまった」
「そりゃ申し訳ない事をしたなァ」

息を吸えば冷気で肺が痛むほどの気温だが、新年という言葉の持つ力はそれなりに強く、作務衣に草履でも苦ではなかった。むしろ胸から溢れる清々しさを抑え切れず、日の出前から作務にいそしむ始末だ。外の皆が起き出す前に片してしまおうとしたところで誓仁と出くわした。鬼の形相で向かってきた誓仁は手に持っている懐中電灯をわずかに振りかぶっていたが不審者の正体がと分かると腕を下し睨みつけた。

「自分の寺すっぽかして、こんなとこで何やってやがる」
「『こんなとこ』は無礼すぎるだろ」

うっかり笑い声をあげそうになり咄嗟に声を抑えたが、それでもうるさかったのか、誓仁はまた片眉をあげを睨みつける。はわざとらしく口元に手をやりながらゆっくりと誓仁に近寄った。

「悪かったって。ついはしゃいじゃった」
「同じ問いを繰り返させるつもりか」
「あ?あー俺のとこは平気。優秀な兄貴がいるし、準備は全て年内に済ませてある。七時には帰れば余裕だから」

明確な時間が示された回答に満足したのか欠伸を噛み殺しながら縁側に腰かける誓仁に倣いも一言断って腰かける。昔何キロ分も雑巾がけをさせられた廊下にはいまだに懐かしさを感じるが、何より横にいる同室安居がそうさせるのだろう。

「これ、差し入れの缶コーヒー」
「不如」
「勘弁してくれよ。元旦の日の出前までそこまで固くならなくてもいいだろ?」
「……」
「お前が飲まないなら俺一人で飲むもんね~」

そこまで寒さは感じないでいた気でいたがプルタブを空けるために伸ばした指が震えているのを見てやはり自分は寒かったことを思い出す。車だからと油断して足袋すら履いてこなかった。

「うぅ、早く日の出来ないかね」
「お前、何で学ばねぇんだよ」
「ん?」

呆れた声で息を吐きながら、誓仁は作務衣から足袋を取り出し粗雑に押し付ける。去年も同じ事言ってたぞと言われてすべてに合点が行った。

「もしかして偶然じゃなくて俺の事待っててくれた?」
「……」
「なんだよぉ嬉しくなっちゃうなァ」
「黙れ。ぶん殴るぞ」

大男が二人並んでじゃれている間にいつの間にか日は上り、墨で塗りつぶされた空が藍、蒼と色を変えていく。あっという間に目を焼くような橙が一面に広がった。

「あけましておめでとう、誓仁」
「あぁ」
「今年も一番に言えて良かったぜ」
「……やっぱコーヒーよこせ」
「残念日が昇ったからもうだめだぜ~!イテっ、殴るなよ!」
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