海賊/ゾロ
年をまたぐこの季節は麦わら海賊団も世間同様に浮かれて船の上では宴が開かれていた。ナミもこの時ばかりは財布の紐が緩み普段は買わないような珍しいチーズやワインもしこたま買い溜め、いつも以上に気合の入ったサンジにより色とりどりで暖かな豪華なディナーが甲板に並べられた。
それぞれが飲み食いし気付いたら眠りこけていたらしく、いつも通り甲板に転がる死屍累々の中、一人だけ起き上がる影を見つけたゾロは薄目でその姿を確認し、また目を閉じた。
「この一年も、無病息災皆が楽しく過ごせますように」
「随分信心深いんだな」
「起きてたのか。恥ずかしい」
「で、今のは?」
「あぁ。俺の地元の慣習だな。初日の出に向かって一年の目標とか願いを祈るんだ」
まだ水平線に一部が隠れた朝日はそれでも直視できないくらいに眩しくて新年というのもあり神々しく見えると嬉しそうに笑う声は昨日の騒ぎを残した掠れ声だ。
「やっぱり気持ちが洗われるよな。浄化されるっつーか」
「海賊船にいてそんな事言うのか」
「ははっまあ気持ちの問題だからな。しかし麦わら海賊団はお天道様に顔向けできないほどの悪事など働いていないと思うがなァ」
「世間から見りゃ海賊は海賊だ」
「違いない」
肩を揺らして笑いながらはまだ甲板に転がったままの瓶に手を付けた。
「うわなんだこれ濃い!」
どこから声を出しているのか喉を潰したような声でげえと下を向く。弱々しく持つ瓶を抜き取ってよく見ると確かに馴染みのないものだがが顔を歪める程強い酒など買っていただろうか。
「飲むのやめた方がいいぜ」
が落ち着いた声で制止する声を聞き流しゾロも一口含むが、口に入れた瞬間舌が痺れ鼻につく異臭にすぐ口から吐き出した。は大丈夫かと顔を覗き込み先ほど言いかけていた言葉の続きを告げる。
「止めた方がいいって。それ醤油だから」
「もっと早く言えッ」
「あだっ」
はまだ飲み込んだ醤油が喉を刺激するらしくまた近くにあった水らしきものを飲んでいるが、今しがた失敗したばかりでよく手を出せたな。
「あ一びっくりした。初殴られだ」
「何が『初』だ。何度も殴ってるだろ」
「年が明けてからは初だよ」
「一年ごとリセットされんのか」
「リセットではないがやっぱり年明けってのはなんでも新鮮なものだよ」
そんな話をしている間にいつの間にか朝日は昇り切っていた。咋日遅くまで飲んでいた面々はこの眩しい陽の光を浴びても起きそうにない。いびきをかいたり鼻提灯を膨らましたりとそれぞれが深く眠っている男性陣を見るの顔はとても優しい。それがどことなく面白くなかったのでウソップが放置していたスーパーボールを掴んでの額にぶつけると力加減を誤ったらしく後ろに倒れてしまった。
「あ」
「あじゃねぇよイテェな声出そうになったぞ…!」
「お前が貧弱すぎるんだ」
してやったりと口角をあげて笑うゾロに対しては転がったまま額を覆って起き上がらない。いくらなんでもそこまで強くはなかったはずだが、動かないを不審に思い顔をのぞいた瞬間襟元を引っ張られ、下からの力に負けてそのままの上になだれ込んだ。
「…ッ!」
「ヘヘ、今年の初キス」
「この、野郎ッ」
カいっぱい殴りつけた後すぐに甲板を確認した。幸い誰も起きてはいなさそうだ。船の2階を見ても女性陣のいる部屋のドアは閉まっている。見られていない事に安堵のため息をついてもう一度を見下ろす。白目を向いたまま気を失う顔は皮肉にも朝日を受けて輝いていた。
「フッ、間抜け面」
の顔を見てはにかむゾロの『初笑い』を見逃したは一味の中で誰よりも遅く目を覚ました。本当は早起きしたと言っても誰も信じてくれないのは日頃の行いによるものだ。
Back