海賊-エース


あの白鯨に乗った期間は短く、白髪海賊団を名乗るのも恥ずかしいくらい短かったと記憶していて、その中で幹部と会話をした時間なんて更にさらに短い。
だからこそどうして自分なんぞの前に現れたのか皆目見当もつかず、果たしてあれは本当に自分の思い浮かべた男なのか別人なのか、緑色の目をぐるりと光らせながらその真偽を見極めようと必死だった。

「そんなに睨まなくともいいだろぉが」
「ポートガス・D・エース隊長」
「ははっ、堅苦しいな」

タチの悪い能力者の仕業だと思って警戒していたのに、意地悪そうに細い目をさらに細めて笑う目元や惜しみなく歯を見せて笑う姿はまさに船の上で見たエース隊長そのものだ。
もしこれが偽物なのだとしたらその観察眼は称賛に値する。周辺にスナイパーといった類の敵襲は見当たらないためわずかに警戒を解いたが、それでもいまだに目の前の光景を信じられないでいた。

「俺よりも貴方に会いたがっている人はいるでしょう。俺なんかより貴方が会いたい人はいるでしょう」
「あぁ」
「なのになぜここに化けて出てきたんですか」
「随分ひどい言い方じゃねぇか」

腹に穴が開いていないのが救いだった。 そうでなければ今頃掴めないその肩を掴んで激しくゆすっていただろう。ずっと憧れていた眩く輝く笑顔が自分に向けられているというのに、同じく晴れやかな気持ちにはなれなかった。

「───アンタを許さない」

どうして自分の前に出てきたんだ。

「どうしてあの時、アンタは…ッ」

折角の再会を、この世への繋がりを、こんな恨みつらみの言葉で消費してはならないって、頭ではわかっているのに。

「安い挑発に乗って、その命を散らしたことを俺は絶対許さない…ッ!何をしたってアンタは、生きるべきだったッ!」

自分の声と呼応するように目から零れる涙を見られたくないという気持ちはあったが、陽炎のように消えてしまいそうな彼から目を離せるわけもないからまっすぐ向けて、ずっとずっと、胸の中で消えない炎として燻っていた思いをここぞとばかりに焚きつけた。
かつてエースが見せてくれたような橙色に輝く綺麗な炎ではないけれど、このどす黒い赤一色の火で一緒にに焼かれてくれとさえ思いながら。

「お前より会いたいやつはごまんといるが、お前ほどおれに会いたいやつはいなかったんじゃないか?」
「そんなことないです。弟のルフィ君やマルコ隊長たちがいるでしょう」
「あいつらは前を向いてるよ」

ヒュッ、と自分の息を飲む音が耳にも伝わる。叱られているわけでも責められているわけでもなく、むしろこちらを気遣うような笑顔を向けられていて、なぜこうも泣きたくなるのか。

「──すみまぜ、ずみません……ッ」
「男が泣くんじゃねぇ」
「無理ですよ、今更ァ…!」

自分より近しい人たちが泣きも怒りもしないんじゃ、自分は押し殺す以外ないと思ってここまで我慢してたのに。

「ルフィのこと頼んだぜ、
「当たり前ですッ!」

俺の名前知ってたんですかなんてかろうじて発したしゃがれ声がツボにハマったらしく、白い歯を見せて笑う顔は本当に、炎そのもののような人だ。

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