鈍感主と
「高菜」
「何?好きなの高菜」
「おかか」
「俺はおかかのおにぎりは買わない」
「……」
「その顔はどういう……?」
校庭の隅にある木の下でまたいつものやり取りが行われている。それを未だ面白そうな顔で見ているのはパンダくらいだ。真希や伏黒、釘崎などはまたやっていると目もくれないし、虎杖はヒントとを伝えようと必死である。
「よぉ、今日の午後は呪霊駆逐班と夕飯調達班に分かれるんだがお前どっちがいい?」
「どっちでもいい」
「ま、お前はそう言うだろうなぁ」
「すじこ!」
「了解、棘が討伐でが調達な」
「いますじこって言っただけだぞ」
「いいから虎杖たち連れて適当に買ってこい」
「適当っていうのが一番難しいんだ」
指さされた先にいる3人のうちどれがイタドリか分からないから、その方向に向かってよろしくと声をかける。それを知ってか虎杖は手を上げて反応するが、は彼らの手前の雑草をぼんやりと見ているので目は合わない。
これは3人を快く思っていないとかではなくただが関心がないからだと、それが分かったのもつい最近の事なのだか。
「こんぶ」
「いや、悪い、分かんねぇってそのクイズ。あ、俺自販機行っていい?」
「しゃけ……」
「うん、魚介だな」
まだ何か言いたそうな犬巻の横をすり抜けてそのまま自販機のある渡り廊下の方へ向かった。落胆するその肩にパンダの肉球が乗せられる。
「今回も惨敗だな」
「ツナ……」
「そう落ち込むなって。悠仁達だってお前の言いたいこと分かるようになるまで時間かかってるわけだし」
「まぁあいつは乙骨と同じ編入組とはいえ虎杖たちより長くここにいるけどな」
「こら真希!」
は確かに禅院真希の言うとおり編入生であった。一年も終わりを迎える冬の頃に新しくやってきたその生徒は、顔に大きな青アザをこさえていたのが印象的で、大人がよく見せる笑顔を浮かべ自己紹介をしていた。
『です。よろしくお願いします』
笑う時に位置が変わる青アザや口の端に見えるかさぶた。何か訳があるんだろうと思った。しかしそれはこの界隈ではよくあることで、特段奇異の目を向けることではない。それをわかっているらしいは静かに案内された席についた。
『俺は一人じゃ戦えないんだよね』
そう言うは自身の影を延ばし呪霊を取り込むと、躊躇いなく自分の右手に杭のようなものを刺した。
『これで、もう動きは封じたよ』
その言葉通り拡散型の呪力を飛ばしていた呪霊は腕に入る激痛と攻撃手段を失ったことで冷静さを欠き、終いには背を向け逃走に出た。
『おらよっとッ!』
すかさずとどめを刺した禅院により周囲を囲んでいた強い呪力は落ち着きをみせた。帰りの車を要請するパンダたちから少し離れたところでは別方向を向いている。
『ツナ』
『え?お腹空いたの?』
『おかか』
『んー?』
犬巻の言葉に反応はしつつも、意識は自身の手に向いている。反転術式を使いいまだ血の流れる腕を修復していた。先程自分で刺した腕はみるみるうちに肉を繋ぎ皮で覆われ、あるべき肉体の状態へ戻る。
『よし終わり。これでまた戦える』
要領が悪くて申し訳ないというの、なんの感情もない作り笑いを見て犬巻棘が何を感じたのかは本人にしか分からないが、その日以降何度も意思疎通を試みては柳のようにかわされる毎日が続いている。
「はい犬巻」
「……?」
「自販機にあったからあげる。もしかしたらお腹空いてるんじゃないかと思って」
別に犬巻がおにぎりの具材を言い続けているのは空腹だからではないし、自販機に売っていたという参鶏湯の缶飲料に魅力は感じないし肝心なとこはまだ気付いていないくせに。
「……しゃけ」
手に持つ缶はほどほどに熱い。
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