ボーダー見学に行く
『前に行った時は正直別のことが気になっちゃってあまり満喫できなかったんだよね』
ある日の帰り道、は会話の合間にそんなことを言っていた。烏丸はその日のことを忘れた事などないが──何故ならが見せた貴重な嫉妬みたいなものだったから──即答するのもバツが悪かろうと思いあぁそうだったかと思い出すフリをしたのだった。
「それを覚えててくれただけでもだいぶ嬉しいんだけど〜っ!」
「声がでかい」
「ん!」
手渡された通行証を大事そうに両手に持ちは頬を綻ばせている。高校生男子とは思えない程幼い顔で笑うからおかしくなって烏丸も口角があがった。
「じゃあこの日、駅の前で待ってるから」
「うん!」
「時間厳守だぞ。俺がいないと入れないし」
「うん!」
「通行証忘れるなよ。落としたら一大事だから必ずかばんの中に入れてこい」
「うん!」
「……聞いてるのか?」
「うん!」
烏丸には目もくれず通行証に目を輝かせるの丸い眉間にデコピンをし、それじゃあと背を向けた。しばらくは悶える声が聞こえていたがその声が止むと今度は烏丸の名を呼んだ。
「京介と会える日、今から楽しみにしてるから!」
「……うん」
ほど動かない表情筋や響かない声でも、烏丸の頷きを受けてまたも嬉しそうに笑っていた。
***
「おはよう」
「珍しく早いな」
「遅刻厳禁だからな!」
いじっていたスマホをしまい、烏丸の前に向き合うは少し緊張しているのかそわそわと落ち着かない。
「大丈夫か?」
「えっ!?おぉ!めっちゃ元気!」
不安の残る返事をしたは案の定、本部のあちこちで驚き疲労するのだった。
「京介、前に学校の見学で来た時に着てた服 は制服なの?」
「あぁ…あれはトリオン体と言って……て、この説明は前にもしただろ」
「えぇ?えへへ」
呆れた風を装いながらもあの日の勘違いが思いの外に影響を与えていたことに少し嬉しく思ってしまうわけで。見せてとせがまれトリガーを起動させる。は少しおどおどしながらゆっくりと手を伸ばしてきた。
「どうした?」
「いや、素手で触っていいのかなと思って…」
「問題ないさ。ほら」
「うひぃ!」
ここぞとばかりにの手を取る烏丸の心臓はバクバクとしているが、初のトリオン体との接触で興奮やら困惑やらで汗を飛ばすはそんなこと知りもしないだろう。
「通行証は腕にはめておけよ。それがあれば学校見学では入れなかった所も多少は入れる」
「おぉ…!」
恥ずかしくなって手を離し、案内するため先導する。ロビーに近付くにつれ人の数は増し、見知った顔も多く見る。烏丸が連れる見知らぬ人に皆玉狛の新人ではと注目するが、先程から興奮冷めやらぬは自身が注目の的になっていることにはまるで気が付いていない。
「京介!ここはなんの場所!?」
「ん、ここは模擬戦を行う場所だ。ほら、ちょうどあのブース」
「遊真君だ!」
前に一度玉狛に行っただけなのだが、それだけの付き合いとは思えないテンションで画面に食いつき声援を送る。が画面に夢中になっているすきに飲み物を買っておこうと自販機に向かって後悔する。前方から向かってくる黒のロングコートを見つけてしまったのだ。
「お、珍しいやつ発見〜」
踵を返そうとしたときにはもう遅く、これは早めに切り上げねばと企てる烏丸を知ってか知らずか出水がにやりと笑い肩を回した。
「お前が本部にいるなんて珍しいじゃん。しかも、一人?」
「いや、俺の───……」
「"俺の”?」
「……友人が向こうにいるんで」
「ふぅん」
「お、珍しいやつといるなぁ」
「……」
出水と同じスタイルで現れた太刀川を見て烏丸は全てを諦めた。こりゃ逃げられん。少しでも早く終わらせる事にシフトチェンジして二人に向かい直る。
「お久しぶりです、太刀川さん」
「いま暇?暇なら一戦やろうぜ」
「いえ、俺は今───」
「なんなら一戦と言わず三本勝負でも」
「だから俺──」
「あのチートトリガーも大歓迎だぞ」
「………」
だめだ。埒が明かない。なんと言って抜け出そうかとか、そろそろが自分を探し出すのではとか、やはり少し離れるということを伝えるべきだったかとか、色々頭を巡らせるほど現状を抜け出す術が出てこない。
「京介」
「────あ」
右肩に置かれた手が誰のものか確かめるより先に、烏丸の左側から声がした。
「俺の──、友人をお返しいただけますか」
「」
烏丸よりほんの少しだけ高い位置にある目はどうやら太刀川に向けられているらしい。ぐっと引き寄せられた肩が急にじんじん熱く感じて、引き剥がそうとした矢先には「失礼します」と引き返した。今度あの二人に会った時は質問攻めだなぁと憂いながらも、力強く引っ張られる腕を振り払う気にはならなかった。
二度目の見学
あの黒コートのヤンキー達が怖くてとにかく必死だった、というのは烏丸を引き連れたが空閑達と合流し、皆でファミレスに行ったときに聞いた話。
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