相澤と山田で奪い合い


「ニャァ」
「また来たのか」

この学園には猫がいる。
どこから入り込んで来るのかはわからないが、気まぐれでやってきては当然のように餌をたかりに来る。いつ来るかも分からない猫のためにキャットフードを用意している俺が言うのでは説得力がないが、来るなら来るでもう少し予測しやすいようにしてもらわないとこちらの準備が間に合わない。
何か文句でも、と言いたげにニャァと鳴く。たまに言葉が分かっているのではないかと疑うが、飯を食って伸びをしたあと、少しも媚びずに立ち去ってしまうあたりやはりただの猫だ。人間なら都合のいい相手には離れていかないよう何かしら飴を与えておくものだろう。

「まぁ、お前だけに言ってるわけじゃないからね」

廊下からゆったりとした足音が近付いてくる。もう一匹の野良猫の登場だ。

先輩」
「猫」
「は?」
「いや、こっちの話」

2つ年下の相澤消太は、俺がサポート科に在学していた時からこうやって研究室に顔を出していた。特待で入学した俺には専用の研究室が宛行われていて、個室なら仮眠を取るのに丁度いいと言い部屋の主に構わずベッドに転がり込んでいたのだ。それが教師になった今でも続いている。勝手に寝てるだけでもてなす必要はないし、邪魔してくるでもなく気が済んだら勝手に出ていくから別に苦ではないんだけど。
しかし自分から部屋に来て何故か不機嫌になる日がある。あれは勘弁してほしい。理由を聞いても拗ねた子供のように素っ気無い相槌を打つだけで答えが分からないのだ。さて、今日はどうだろうか。

「……」

さり気なく部屋の中を物色されている。なんかめぼしいものでも探しているのだろうか。面白いものなど何もないが。

「今度の土日は、どこにも行かないんですか」

突然話しかけられるから心底びっくりした。いい返事もできず顔を向かせるだけの俺に、相澤は満足げに鼻を鳴らしてまたベットに寝転んだ。それ俺の。

「なんで?相澤がどっか誘ってくれるのか?」
「………、は?」
「あっ」

うわー、これは完全にやらかしましたわ。
いつもの“あいつ”とのノリで発した言葉を撤回したい。引いた顔の相澤を見ながらあり得ない想像で現実逃避。いや違うんだよ。すごい自惚れっぽくなっちゃったけど本気ではなくて、そういうノリでして。ほら、あいつなら絶対───

「おーいさん!明日暇だろォ!」
「ひざしぃ!!!」

そうそう、こうやって来るからさ!
いつもはやかましいと思うものも今はものすごく救世主のように見えてつい両手をあげて向かい入れてしまう。一瞬動きが止まったひざしもすぐに両手をあげハイタッチで迎え入れてくれた。ありがとうひざし。そして何故今舌打ちした相澤。

「おやァ、ショータがここにいるなんて珍しくね?俺はよく来るけど一度も会った事ねぇな」
「んや、こいつもよく寝に来てるよ」
「寝……!?」

職務怠慢に腹を立てたのかひざしがキッと相澤を睨む。そんな視線もスルリとかわして人のベッドでくつろいでいる姿はやはり猫みたいだ。

「それで、何か用があって来たんだろ?」
「おぉそうだった!さん今度の土曜日暇だろ!?これ行こうぜ!」
「どれ?」

差し出された2枚のチケットには派手な装飾に混じってイベントのタイトルロゴが並ぶ。どうやら各国のお酒が集まり飲み比べができるイベントらしい。行きたい。相変わらず俺が好きなイベントを押さえている。

「いいな、行こう」
「やったぜ!」

自分から誘ってきたくせにえらく嬉しそうにするからなんともノリ甲斐があるというか、こういうところが人好きする要因だろう。
嬉しそうに待ち合わせ時間を調べだしたひざしを、ずっとベッドに寝込んでいた相澤が押しのける。

「……」
「何すんだよオイ!」

大きな声を出すひざしをまるで無視して俺の手に渡ったチケットを見る……というか睨みつける。

「ど……どうした?」
「これ、2枚しかないですけど」
「おぉそうだな」
「こいつと二人で行くんですか?」
「ん?」
「当たり前だろ俺が誘ったんだから」
「チッ…」
「何故舌打ち……」

俺の個室はけして広くない。こんな空間に何で男3人で密着しなければならないのか。

「こいつは飲むと絡みが鬱陶しいし送る羽目になる。やめたほうがいいです」
「ンだとぉ!?」
「まぁまぁ」

さすが同級生と言うべきか、相澤もひざしもお互いの酒癖を把握しているらしくそれぞれの欠点を上げていく。仲良きことは美しきかな。あぁそうだ。

「それなら君ら2人で行ったらどうだ?ほら、2枚しかないんだし」
「えッ」
「こういうのはやっぱ仲いいやつ同士で行ったほうが楽しいと思うんだよ」

俺はここで機械いじってるからと今製作中の装備を見せるべく立ち上がろうとした時、両腕を二人に掴まれこう口を揃えて言われた。

当日券もあるから3人で、と。
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