玉狛を訪ねる二人
はお喋りだ。烏丸が黙っていても楽しそうに喋って一人で笑うくらい賑やかだ。そんな少年もこのときばかりは口を開かず、じっと外の景色を眺めている。
「そんなに緊張するな」
気を揉んだ烏丸が話かけてもふにゃふにゃと唇を動かすだけで言葉は出てこない。お手上げだ。
「あと二駅で着くぞ。忘れ物には気を付けろよ」
「なぁ京介、ホントにいいのかぁ…?」
やっと口を開いたかと思えばこれだ。繰り返し確認された問いにも呆れることなくあぁ、と答える。
「むしろ、何故今まで黙ってたのか不思議なくらいだよ。別にお前の事を、その……恥じていたとかじゃなくて、なんとなく俺の勇気が出なかっただけなんだ」
「恥じてとかそんな事はどうでもいいんだ。ただ、わざわざ紹介なんかしてもらわなくてもいいよ、しかもボーダーの仲間になんて」
「今日は偉く控えめだな。いつもの厚かましさはどうしたんだ」
「あつ……!厚かましくないだろぉ!」
少しいつもの様子が戻ったらしいところでタイミングよく電車は目的についた。案の定は電車に紙袋を置き忘れかけた。
***
「です!京介にはいつもお世話になってますッ!」
談話室に足を踏み入れるなり、応援団のような声量で腰を90度に曲げるほどの挨拶をしたはそのままの状態でぐいっと紙袋を差し出す。きちんとした挨拶と手土産につられ陽太郎と小南はすぐにほだされた。
「、アンタ住んでるとこも違うのにどうやってとりまると知り合ったの?」
「とりまる?あぁ“烏丸”だからとりまるか!面白い呼び方だね!俺ねぇ、中学卒業と同時に引っ越しただけでそれまでは三門市に住んでたんだよ」
「なぁよ、このお菓子余っているなら食べてもいいか?」
「どうぞどうぞ」
「ふふ、いい心掛けだ。褒美に雷神丸のお腹触っていいぞ」
「ははー!」
仰々しく頭を下げ、いざ雷神丸の腹を触ろうとするが当の本人──カピバラが動こうとしない。も噛まれるのを恐れてか手をふやふやと動かすだけで触ろうとしなかった。
「こうするといいぞ」
烏丸がソファーから立ち上がろうとした時、「空閑遊真」が自己紹介がてら手助けをする。ころんと転がされた雷神丸のお腹は、が思っていたよりずっと固かった。ちよっと悲しい気持ちになる。
「お茶、ここに置いておきますね」
「ありがとうございます!えっと……」
「雨取千佳です。修君と遊真君と同じ隊にいます」
「オサム?聞いたことあるなぁ」
が顎に手を当ててうーんと考えるのは、過去に烏丸が電話で三雲と話しているのを聞いていたからだ。それに気付いて烏丸がハッとする。やましいことはないが、あらぬ誤解が生まれては大変だ。ただの弟子だと訂正するべくソファーから立ち上がろうとした時、三雲が先に口を開いた。
「烏丸先輩はぼくの師匠で、よく面倒を見てもらってます」
「師匠!?京介が!?」
すっとんきょうな声に宇佐美が笑う。元気だねぇと言われてはぱすっと両手で口を覆い、三雲の背中を押して部屋のすみへ移動してしまった。
「元気なやつだな」
「はい。いつもああなんです」
玉狛第二が車座になって話すのを少し離れた所で見ていた木崎が一人ぽつんとソファーに残された烏丸に声をかける。林藤が不在の今、唯一二人の関係を知る木崎はここに来てからずっとそわそわしている烏丸を放っておけなかったらしい。
「夕飯作るから、食っていくよう伝えろ」
「あ、ありがとうございます」
親への連絡もあるだろうし早めに伝えてやろう。そう思いソファーから立ち上がろうとした時、近くで話を聞いていた陽太郎が雷神丸にまたがりへ伝令しに行った。清々しいまでの三連敗である。
***
「木崎さん、ごちそうさまでした!おじゃましました!」
はぶんぶんと手を振って挨拶をしてから数歩先を歩く烏丸を追った。方向音痴のを案じて駅まで送ることになったのだ。……建前としては。
「玉狛はどうだった」
「すっごく楽しかった!皆好い人ばっかりだね!」
満足そうに笑うのはだけ。烏丸としては借りてきた猫状態も一瞬で、すぐ烏丸の事など放って他の面々と仲良くなるにどこか面白くない思いでいた。せめて帰り道くらいはと思ったがやはり彼らへの悔しさが増しただけだった。
「とても楽しかった。俺の知らない京介の話、いっぱい聞けたもん!」
「俺の?」
「そうだよ。玉狛隊としての京介とか、師匠してる京介とか、三雲君たちに色々教えてもらったんだ」
自分のいないところで盛り上がる彼らへの、悔しさが増しただけだった、のだが…………
「はぁ……」
「ん?どうしたんだよ京介、顔なんか覆って」
立ち止まった烏丸に合わせ足を止めたが行かないのかーと顔を覗きこんでくる。情けないやら恥ずかしいやらで合わせる顔がないが、それでも一つだけ言いたい。
「まだ帰したくない…………」
「ふはっ、じゃあ……ファミレスでも行く?」
まだ何も返事をしてないのに烏丸の手を取って駅の近くのファミレスへと引っ張っていく。手を繋ぐのとはまた違うが、これはこれで。
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