2020頃の

【スモーカー】

「今週は禁煙デーでーす」

厚生課に配属された同期が間延びした声を発して部署へとやってきた。

「『禁煙デー』だ?」
「そうなんスよォ、まぁ外部からの客人が本部に来るのと喫煙所の修繕が被ったからついでにっていう───て、スモーカーじゃん」

久し振りぃ、と、これまた間抜けな様子の男は眉間に皺を寄せるスモーカーを見てニヤリと笑った。

「あぁ~名が体を表すスモーカー大佐は禁煙デー大変そうだねェ」
「どうせこんなの目安位のもんだろ」
「んー目安か義務かって言われたら義務じゃない?客人を迎えるツル中将もここにサインしてるし」
「……」

火をつけた葉巻を机に押し付けまたも男を笑わせた。

「まぁそうカッカするなよ。タシギちゃん達部下が可哀想だ。これやるからよ」
「……馬鹿にしてんのか」
「まっさか!俺も口寂しくなった時食べてるもんほら」
「汚ェもん見せんな」

真っ赤な舌の上に転がる飴玉を口にしまって、机にパラリと置かれた3つの飴はどう見ても女子供が好むそれで、煙草の代わりには到底なりそうもない。

「俺、最近ずっとこれ口に入れてんだよね。お前も気が向いたら食えよ」

じゃあ仕事戻るわ、と片手をあげ左腕に抱える紙を抱え直して去っていく男から、わずかにミントの香りがした。



「おい、あれまだ持ってるか」
「なんだよスモーカー、気に入ったの?」
「……」

言わずとも、スモーカーから僅かに残るミントの香りが雄弁に語っている。

「うまいよなぁこれ。お前とはやっぱ食べ物の好みが合うんだよな!」
「…………禁煙デーなんだろ。今日だけだ」
「はいはいっ……てあぁ!?そんなすぐ噛むなよなッ!」


─────
のど飴が美味しくてもう3個も食べてしまったスモーカー
#なんとなく可愛い
https://shindanmaker.com/937109



【心操】

早起きは三文の徳と言うがあながち間違いでもない。制服のポケットに忍ばせた五百円玉を手で転がしながら雄英までの道を歩いていると、目の前に見覚えのある後ろ姿を発見した。

「おはよう」
「…………うっす」

相手の反応を受け、しまったと内心舌打ちをした。同じクラスというだけであまり会話らしい会話もしたことがない相手に思わず声をかけてしまったのも、ポケットに忍ばせた500円玉に得したと浮かれていたからだ。

「あー…お前も朝早いんだな」
「…………まぁね」
「いつも遅刻ギリギリに来てるイメージがあるからさ」
「あぁ……寄るとこあるから」

その後も気を遣って話しかけてみるもただ中身のない返事が返ってくるばかり。それどころか露骨に距離を取ろうと足早になっている。

「……おい、学校はこっちだぞ」
「寄るとこあるから」
「あっそう」

沈黙が気まずかったしここで分かれられるならラッキー、位に思っていたのだが、ふと目についたコンビニの袋、その中に猫缶のような物を見つけて目が離せなくなった。

「なぁ、もしかして寄るとこって───」


   ***

「ここだ。迫害猫達の集まる場所」
「迫害猫…?」
「縄張り争いに敗れていられなくなった猫が集まるんだ。ほら、お前にも1個やる」

投げられた猫缶を反射的に受け取った。缶を見つめている間にも彼の足元には数匹の猫が集まっているから本当に足繁く通っているらしい。

「ここの猫は現金だから。新参者でも餌をやれば近付くよ」

視界に俺と同じ制服が飛び込んできて、そのまま缶を握る俺の手を利用して蓋を開けた。

「猫の毛、すごいな」
「あぁ。だから猫アレルギーの奴がいたら悪いから学校じゃ出来るだけ隅っこにいんの」
「なるほど」

今朝の足早な様子もそのためか。朝とはえらく印象の変わったクラスメイトにポケットで暖めていた500円玉を突きつける。

「あ?」
「また俺も来たいから、餌代」

500円玉は何も言わず取られたが、見ようによっては笑っている横顔を見て、何故か俺まで笑えてきた。
タイミングよく猫が鳴く。


─────
掃除をしていたら500円玉が出てきてとても得した気分になる心操
#なんとなく可愛い
https://shindanmaker.com/937109



【村上】

「おはよ~!この間は楽しかったね、また誘って!」
「おお、お前が教えてくれたあの店ほんとよかったわ~、やっぱお前の目に狂いはないね!頼れる」

「あ!鋼!おはよっ」
「おはよう」

世話しなく廊下ですれ違う女子に声をかけていたクラスメイトが村上を見つけるなりサカサカと駆け寄り挨拶をする。それ自体は嬉しいのだが、自分の隣に来てもする話と言えばこの間は誰とどこそこへ行った、何々が旨かった、等々正直村上にはどうでもいいことで、それでもこいつが楽しげに話すから聞いていて楽しいと思っていた。しかし最近はどうにも苛立ちのようなものを感じて仕方ない。任務の忙しさでストレスが溜まっているのだろうかと思ったがボーダーでの任務が落ち着いた今でもこうなのだから今だ原因は解明できていない。

「鋼は食べたことある?」
「えっ」

上の空だったことを咎めるでもなく「だからさ」と繰り返す。

「パクチー。鋼は食べたことある?」
「……いや、ないな。どこかでカメムシの味がするって聞いて」
「ブハッ!カメムシってひどいなぁ!」

よほどツボにハマったらしい友人は上体を丸めて笑い、その姿に少しだけ苛立ちが収まった気がしたが、それはほんの一瞬だったためまぁ気のせいだろうと気には止めなかった。

「この間出掛けた子が教えてくれたお店なんだけど、メインがパクチーでさぁ、俺も初めて食べたんだけどまぁわりと?カメムシ!て程食えなくもなかったぜ!」
「そうか」
「店もシックな感じでおしゃれでさぁ」
「そうか」
「他の料理も旨いし、また来たいなぁて思ったんだ」
「そうか」
「俺とパクチーデビューしない?鋼」
「そうか…………ん?」

聞き流せない言葉に目を見開く。そんな村上の動揺など気付いていないらしい少年は

「他にも鋼を連れてきたいなぁて店がいくつかあってさ、ボーダーが暇な日、付き合ってくれね?」

なんて笑うから、混乱した頭の隅で必死にシフト表を思い出していた。



─────
パクチーをまだ食べた事がないので「カメムシの味がする」という噂を恐れている村上
#なんとなく可愛い
https://t.co/WPwOW23yvs
Back