2019頃の
【眠る前の】海賊/クロコダイル
「おい」
「あーちょっとタイムです」
背後からの声に振り向きもせずふてぶてしい返事をする給仕の男にクロコダイルは当然穏やかではない。
「テメェの都合なんざ知るか」
「でも今は私の勤務時間じゃないので」
「あまり生意気な事を言うと殺すぞ」
「私が残した血溜まりをサーが掃除する様子が面白いので構いません」
「馬鹿言え掃除はテメェの───」
言葉の矛盾に気付いて舌打ちを打つ。目の前の男はまた楽しそうにフフッと笑ったが、その顔は今だこちらに向かれることはない。
「……言った仕事は当然片付けたんだろうなァ」
「もちろん!頼まれてた書類は朝一番に送りに行ったので、明日の昼過ぎに届くだろうから、その頃を見計らって確認の連絡を入れます。バナナワニが一匹皮膚を引っ掻いていたので手当して薬も塗りました治療費はもう頂いたので領収書はしまってあります。それとサー御用達の業者からご挨拶に伺いたいと連絡ありましたが必要な時にこちらから出向くと言って───」
「うるせぇもういい」
「はぁい」
「おい」
しばらくは椅子に座って彼の手元の用事が終わるのを待ったが元来この男は誰かに譲歩する質ではない。痺れを切らし低い声でもう一度言うと、タイミングよく彼がこちらを向いた。
「寝酒を呑みにいらしたんですよね。何か口に入れた方がいいから、これ作ったんでどーぞ」
「……勤務時間外じゃなかったか」
「これは親切心です」
「ハッ。恩着せがましい」
何も言わずとも出されたワインもそれに合わせて用意したであろう軽食も、どちらも口に合うのだから今日のところはまだ殺さずにいよう。
ただ一人きりとなった給仕はそんな主人の心を知ってか知らずか、ニコニコと笑みを浮かべて片付けに入った。
【病名:鈍感】rkrn/潮江文次郎
「うぅまただ……」
「なんだ、浮かない顔して。悩みごとか」
バチんバチんと算盤を弾く手が止まる。
「潮江さんに言ったところで『鍛練が足らんッ!ギンギーン!』になって解決しませんよ」
「言ってみろ」
物真似までしたのにそこには触れず、詰め寄るように声を落とした文次郎に小さく笑う。
「最近胸焼けがひどいんです」
「どういうときに」
「いつでもって訳じゃないんです。食堂とかこことか」
「その若さで胸焼けに悩まされるとはな。伊作にでも聞いてみろ」
「最初っからそのつもりなのに」
「先に俺が聞いたってだけだ」
帳簿を閉じて立ち上がる。目で追う三木ヱ門に気付いて声をかけた。
「田村君、ここに積んだ帳簿は終わったので、他に手伝えることがあったら言ってください」
「あ、ありがとうございます先輩」
優しく微笑んで手を振るこの先輩は肩を竦めて文次郎に向かい直る。
「じゃあ私伊作君のところに行くけど、潮江さんも程々にしてくださいね」
「善処する」
襖がしまったのを確認して三木ヱ門は小さくため息をついた。
どちらも鈍感がすぎる。
「今は胸焼けでも流行ってんのか」
そう溢した委員長に馬鹿言え、と言うのをこらえた三木ヱ門は褒められるべきだ。
【フラグを探せ!】WT/迅悠一
「迅さぁぁんッ!」
パタパタと駆けてきた少年を出迎えたのはお目当ての迅悠一ではなく彼に似ていると言われる嵐山准一人だ。
「あれ、今迅さんの声がした気がしたんだけどなぁ…嵐山さん知りません?」
「えっ迅か?あいつならもうここにはいないぞ」
「嵐山さん嘘下手だなぁ。迅さんは…後ろのブース!!」
がらり!と勢いよく開けられたブースの隅っこで眉を下げて目を閉じている男に勢いよく飛び付いた。
「あっはは…まあ准の嘘はバレるよなぁ」
腹に力をいれて受け止めた迅は困ったようにそういうが、その実楽しそうであることなどお見通しだ。
嵐山も詫びる気のない謝罪を言って目の前のじゃれあいを見守った。
「迅さん!さっきまた勝ってポイント貰いました!」
「そうか~頑張るなぁ」
「はい!だからもしおれがB級に上がったら……その……」
さっきまでの快活な様子は成りを潜め、もじもじと何かを言いたげに目をさ迷わせた。
「生身の状態で、あ、握手してくれませんか…?」
「もちろん。なんなら、ハグだってしてあげるよぉ」
「ハ……!グ……ぅ!?」
ぼんっと音がなりそうなほど顔を赤らめた彼はそのまま逃げるようにブースを出ていった。
「やれやれ、元気だなぁ」
トリトン体の時はなんのためらいもなく飛び付いたりじゃれてくるのにこの変わりようだ。おかしくてついからかってしまう、と涼しげに言う迅に嵐山は首をかしげる。
「迅、トリガー解除してみてくれ」
「やだ」
詰め寄る嵐山から数歩下がったところで自販機に頭をぶつけては、その動揺具合は見てとれた。
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