2019頃の
MHA【伝導しない熱】より
「なぁ、横いいか」
「それ座る前に言うもんだぞ」
そうか、と言いながらカウンター席のま隣に座ってきた焦凍を見てか、俺に話しかけていた普通科の女子たちが去ってしまった。友達になるチャンスだったのに……。
文句のひとつ言ってやろうと焦凍の方を見るといまださっきの女子たちを見て…睨んでいる。お近づきになりたいならそんな睨んじゃだめだぞと言うと目をくりっとさせて小首を傾げた。
「お前、こんな時間に昼飯か」
「いやぁ、先生に頼まれた仕事があまりに長引いちゃって。このまま帰るのもお腹ペコペコだからさ、軽く食べようと」
何食べようか物色していた時にあと5分もすれば出来立てのたい焼きが焼きあがると言われ、こうしてカウンターで待っていたところなのだ。
「そうか」
「うん、そう」
「……」
「あー、焦凍こそここで何してるの?」
ヒーロー科とはいえ流石に授業は終わっている時間だと思う。外も街灯がついてるし。
「お前を、待ってるんだ」
青い目も、焦げ茶色の目もしっかりと俺を見つめている。細めるどころか女子も羨む大きな瞳のまま、目を凝らすようにじっと見る表情。
昔から時々向けられたけど最近よく見るなぁ。
「待ってる?」
「あぁ」
「でもほら、全寮制になったわけだし」
すぐそこなんだから待たなくていいよ。親切心で言ったのに焦凍に不服そうな顔をさせてしまった。言い方キツかったかな。
「ハァ……いい。暇だし待ってる」
そういう意味じゃねぇけどとぼそりと言っていた、気がする。気がするのは聞き返そうときたタイミングでおじさんがたい焼きできたよと教えてくれたからだ。
「待ってて」
「あぁ」
「はい、これ焦凍の」
「俺の?」
待たせてる横で一人食うのもおかしいだろう。それに、子供のままと言われるかもしれないけど
「昔みたいに、焦凍と二人で買い食いしながらゆっくり歩きたくなって」
声に出したら少しこしょばゆい。焦凍もつられたのか、懐かしさを目に潤ませて笑っていた。
rkrn【目を覆い、記憶に蓋をする】より
彼が俺を「兵助」と呼んだあの日に見た幻が、現のものだったと思えて仕方ない。この話をする度に夢でも見たんだろうとあしらわれるが、生憎あんな一瞬のうちに、それも立ったまま夢を見るほど器用な質ではない。あれは、夢なんかではないはずなんだ。
「久々知、ここにいたの」
「……あぁ」
「何か見える?」
「よくも悪くもここは見晴らしがいいよ」
煙も上がっていないが緑も少ない。矢鱈と空が広く、そして夜も明るい。見慣れたはずの景色に違和感を覚えるのは何故だろう。
「……久々知、大丈夫?」
「ん?何が?」
「今が一番辛くて難しい時だと思う。けどこれだけは忘れないで」
俺の問いかけなどお構いなしに話続ける彼の口元は、何故か無理して笑っていた。
「過去の出来事は、今となんの繋がりもないから」
「分からないよ、何の話をしてるんだ」
強い口調で彼を睨む。
ふと視界がぐらりとゆれ、人のいない屋上では聞こえるはずのない幾人もの声が頭に響く
「……ッ!?」
一瞬、幻影のようにぶわりと浮かんだ和服姿の彼は、今と同じ、泣きそうな顔で笑っていた。
WT【視線誘導装置】より
「あ、カゲこんなところにいたの、探したよ」
俺と影浦がお決まりの挨拶を交わし──今日の影浦はソファーに座ってきた──二人で向かい合って貶し文句の往来をしていた時、ふとずんぐりとしたまっくろくろすけが声をかけてきた。
「遅ェよ」
「うわ、探させといてその言いぐさは最低」
「本当だよ。ゾエさんじゃなかったらキレてるよ」
笑うでもないが不機嫌なわけでもない、そんな表情で話をする二人はどこか似てる。やっぱり隊が同じだと似るのかな。隊に所属してない俺には分からないが。
「あ、そっか。この人が例の……」
「例のって?」
「おい」
「カゲが自分に刺されないから居心地がいいんだつて」
「おい黙れ」
「ププッ。影浦、刺されるとかどんだけ日頃の行いが悪いんだ」
「テメーも黙れ」
まぁトリオン体だから刺されたって死なないけどね。ところがどうやら刺さると言っても物理的なものではないらしい。
視線?自分に向けられた感情が感覚となって刺さるんだとか。ゾエさんが一生懸命説明してくれたけどこればっかりは本人にしかその辛さは分からないだろう。
「あ、つまり殺気に気付けることで誰からも暗殺されないってわけな」
「……誰からも、じゃねぇ。お前なら俺を殺れるだろうな」
「え?何で?」
本気で分からないんだと言えばわざとらしく大きなため息をついてぐいと顔を寄せてきた。ゾエさんの「大胆」と茶化す声がする。
「……」
「……」
すっごい至近距離でメンチきられてる。
「ほら、そういうとこだよ!」
「え?」
「こんだけ顔近づけても何も思ってねぇだろお前!」
前に『感情が薄い』と言われたのはそういうことだろうか。影浦は俺の感情が読み取りにくいらしいが、影浦が怒ってることはよくわかる。
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