2017頃の
【言わねば伝わらん!】より
まだまだ寒い。この寒さでは手がかじかんで手裏剣さえまともに打てないな。
冬休みなんて寒冷前線が去るまで続けばいいのに。なんて言ったら「甘ったれるなバカタレ」って言われるんだろうなぁ。容易に浮かぶ想像ににやけるのをぐっと堪える。町を歩く娘が一人で笑ってるなんて白い目で見られるだけだもん。
ふと向けた先に仲睦まじく歩く男女の姿があった。寒いもんね。肩をよせて手を繋いでる。
いいなぁ…私もいつか───・・・
「くっ…くくっ…」
ダメだ、想像もつかない。
そもそも文次郎相手に手を繋ぐなんて絶対できないだろうなぁ…!はぁ、おかしくって涙出ちゃう。
「何を一人で笑ってるんだ気色悪い」
「あ、れ?文次郎?」
「まだこんなとこにいては学校に遅れるぞ」
文次郎、珍しく寄り道でもしたのかな。ここは通学路じゃないはず。
首をひねると数歩先の文次郎が置いてくぞ、と声をかけた。
ふふふ、新学期早々幸せが舞い降りた。ここから十町、大好きな彼と並んで歩くことができるとは。
手の冷たさはもう感じない。
【なんの感覚もない】より
私は滝の右側を歩く。いつもいつも。
でもあんまりあからさまにやると滝は困った顔をするからできるだけ然り気無く。…でも学年一優秀な滝夜叉丸君なら私の意図なんてまるわかりだろうけど。
滝の右腕はここ数ヵ月動いていない。実習から帰ってきたあの日からただ飾りのようにぷらぷらとぶら下がっているだけ。
滝の大好きな輪子ちゃんもここしばらく空を舞ってはいない。
「天才的この平滝夜叉丸様だ!これしきの怪我治してみせる!」
本当は滝が一番辛いはずなのに、めそめそと泣く私のために励ましてくれたあの言葉、強がりだったと気付いたのはつい最近。
「なぁ、今の私は相当カッコ悪いのではないか?」
「滝はかっこいいよ」
買い物の帰り、私はいつも通り滝の右側に立ち両手に買い物袋を下げている。滝は左手一本で私の両手分の荷物を持ってくれているのだ。そういうところがかっこいいと告げるとあまり納得してない様子でそうか、とだけ答えた。
でも、と。角を曲がった辺りで何かを思い立ったように立ち止まる。今度は一体どうしたの。
「この腕じゃ立派な忍者にはなれないんじゃないか?そうしたら───」
「びっくり、今の滝はすごくカッコ悪い」
「カッコ悪…!?」
私よりもびっくりした顔で口をあんぐりさせた。忍者にはなれなくとも顔芸職人にはなれそうだよとは今は言わないでおこう。
「いつもの自信はどうしたの、文武両道で歌舞音曲にも秀でてる努力家滝夜叉丸くん」
「自信なんて」
「滝、努力することはカッコ悪いことじゃないよ」
「私、滝がいらないって言うまでずっと側にいるから。」
「…いらないなど、言うものか」
今度は満足げに微笑んで歩を進める彼に並んで歩く。
私の左手に、彼の指が小さく触れた。
【いつだって君が僕の中心だ】より
「雷蔵の実習と私の実習が入れ違いにあるということは」
「いうことは?」
先程から妙に膨れっ面の彼女は前触れもなく口を開きこうして僕に問いかける。何だろう、僕、何かしただろうか?いやでも、まだ会って数分、何かやらかすようなことはしてないし…うーん…
「暫く会えないってことだよ!」
「あぁなるほど」
「嫌だ~~実習も嫌だけどそれ以上に雷蔵とおさらばなのも嫌だ~~」
「おさらばって…一週間とそこらだろう?」
長い長いと木にぶら下がるのは勝手だけどどうか落ちないでくれよ。下にいるの僕だから。
「雷蔵は寂しくないの?」
「さっきも言ったけどたった一週間だろ?」
あ、これかな。これかも。三郎に『お前はあいつが好きではないな』と言われた原因は。僕は俗に言うドライなのだろうか。勿論彼女のことは好きだけど、でもそうか、態度にでないってことはもしかして…
「雷蔵?」
「…えっ!?あぁ、そうだ。そういえば実習って何のだい?」
「んーそれがね、男に付け入る術。言葉巧みに、最悪色を使って見知らぬ男に簪を買ってもらうの」
「え」
「他人にたかるなんて難しいんだから」
そうじゃなくて、え、色??不本意ながら頭に浮かび上がる姿に血の気が引くのが分かる。僕らだってまだなのに…
「…そういえば、図書室に製薬の本があってね…意識を朦朧とさせる薬もあるからそれを使えば実習も楽々終わるよ…」
「いやいやいや、そんなの使ったら即失格だからね!?色といっても、接吻くらいだよ」
そういってへらりと笑う顔がなんとも愛らしい。
「あ、そっか」
少しかがめば届く距離。聞こえちゃうんじゃないかってくらいうるさい心音と汗ばむ手を隠しつつそっと唇を落とす。
「…わぁ、…びっくりした」
「ごめん…僕も驚いてる」
「実習のことで、嫉妬した?」
「…うん」
「すごいよ雷蔵、悩まなかったね」
「迷う要素ないだろう?」
ああ驚いた。照れた顔もとっても可愛い。
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