2016頃の

【文次郎】

買い出しを済ませ忍術学園へ戻ろうと店を出ると、空は溜め込んだ雨を落とした。
「こりゃ困ったもんだねお兄さん。傘を貸そうか」
「いえお構い無く。それより、もう少し軒下を借りていてもよろしいですか」
「あぁ、あんたのいい人が迎えに来てくれるのか」
「おそらく」と曖昧に答えると店主はそれでも楽しげに笑い店の中へ戻っていった。

待たされるというのは好きではない。
強くなる雨音や傘をさし町をゆく人々の声を聞きながらぼんやりとしていたが、そろそろ動かねば。
来ないだろうとは思っていたものの、心のどこかでは期待していたのだろう。
女々しいなと自嘲気味な笑みがこぼれ軒下を出ようとしたとき、前からばしゃばしゃと聞きなれた歩みがして、意図せず顔が緩む。
「…まったく、この雨のなか駆けては着物が汚れるだろう。バカタレ」



【留三郎】

「たっく…俺は修補委員長じゃねぇぞ…」
「なんていいながら嬉しそうじゃないか」
伊作の発言に慌てて顔を引き締めた。
嬉しそうだと…だらしなくにやけていたんじゃないだろうな。
「今度は何を直しているんだい?」
「これか?小物入れだ」
「へぇ、留三郎、随分可愛らしいものを使っているんだね」
「バカ、俺のじゃねぇよ」
こういうときに限って勘がはたらいた伊作は気味の悪い笑顔を浮かべ「それじゃあ頑張らなきゃね」と肩を叩いた。

父親が作ってくれた大切な小物入れだと言っていた。
そんなに大切なものなら町の修理屋に持っていけばいいのに。
「留三郎、また顔に出てるよっ」
「だー!うるせぇよ!」
あいつの大切な物に俺の手が加わるというのがなんともこっ恥ずかしくて、なんともむず痒い。



【ドクササコの凄腕忍者】

「ーーー以上が今回の報告になります」
「ご苦労。…あぁ…そうだ、くの一」
「ハッ」
「お前の名前はなんと言うんだ」
「は?」
俺の質問によほど驚いたのだろう。
初めて聞くような情けない声をあげ、ずっと下を向いていた瞳はようやくこちらに向けられた。
「名前、ですか」
「何度も言わせるな、お前の名前だ」
見開かれていた目が僅かに細められたかと思えば息を漏らして笑った。
「名乗る名前などありません」
「名前がないことはないだろう。城主へと渡った履歴書とかに記入しただろ」
自分で言っておいてなんだが発言がどこかメタい。
「だって」
「ん?」
「忍頭のあなたでさえ名前がないのに、私に名があるわけないじゃないですか」
嗚呼まったく、俺にはお前の名を呼ぶこともできないのか。
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