「もういやだぁ!」
突然そう言って膝を抱えてうずくまってしまったから、さすがの周囲も何事かと声の方へ顔を向けた。いまだうずくまってつむじだけを見せている後輩の横に並んで座ってみる。エレベーターに反射して見える自分たちの姿が完全にタカリとカツアゲだ。さっさと立たせないと俺のパワハラによるものだと思われる。
「おぉ〜どうしたんだ突然。何か嫌な事あったか?」
赤い髪が横向きに揺れた。両手に持っているファイルがすごい力で握られてしまってるんだけど、俺の作った資料それ無事だよなあ?
「もしかして体調悪かった?ごめんなあ気付かなくて」
これも首は横に振られ、とうとう動かなくなった。出掛け先で歩き疲れ『もう動けない』と言ってしゃがみこんだ甥っ子を思い出す。嫌だぞ、成人男性背負って会社の中歩くの。
「観音坂、取り合えずここだと邪魔になるから部屋に戻ろう」
「……」
「部屋に行くのが嫌ならそこの自販機。喫煙所近いから人も少ないし、あそこならいいだろ」
いいだろ、なんて言いながらも腕を掴んで立たせ強引に連行だ。ファイルの束で顔を隠すように歩く観音坂の腕を引いてオフィスの角にある自販機へと。いまだ顔を上げない観音坂をやたらギシリとうるさいベンチに座らせて暖かいコーヒーと紅茶にお茶を用意。
ふはは、顔を上げて自分で選ぶがいい!俺の作戦とも知らずに選べと言われるがまま顔を上げてびっくり。泣いてんのか?
「ど…どうしたんだよ観音坂、なんか嫌な事あったのか?」
「ゔぅ〜〜」
「唸ってても分からないぞ」
怒っているのか涙を落っことさないよう踏ん張ってるのか分からないが、いつもの下がりきった眉を珍しく引き締めてて面白い顔をしている。
「
先輩が……」
「俺?」
「
先輩が優秀すぎて俺みたいな役立たず死んだほうがいいって思うけどそしたら先輩の横には俺じゃない誰かが補助に入ってその人が
先輩と一緒に仕事するんだと考えたら悔しくて悔しくてでもこんな私情で物事考えてる時点で俺は社会人として終わってる奴で
さんから見限られたらどうしょうとか色々考えてました鬱陶しいですよねずみません俺は本当にダメな役立たずだ嫌になる」
「ぃよ一しよし。そんなことないぞーお前は頑張ってるよー」
見捨てないでくださいとかもっと構ってくださいとか。涙と一緒に本音らしきものが出ちゃってるけど大丈夫?あとから羞恥心に負けて首吊ったりしないよね?
「本業で忙しいのにこんなに頑張ってる観音坂を見捨てるわけないだろお」
「本業ってなんですかぁ…」
「麻天狼だっけ?あっちが本業だろ。リーマンは副業だとお気楽にやってればいいんだよ」
「本気で仕事してもこんなにダメなのに、気楽にやれば今度こそ
先輩を道連れにしてしまいまずッ」
「いいよ。一緒に頑張っていけば」
「それに、俺にはここでの仕事が本業ですからぁ!
先輩と同じくらい一生懸命に頑張るので甘やかさないでくだざいッ!」
「あはは……」
元々ネガティブな奴だったけどさ、もっと内に籠るタイプの陰湿さじゃなかったかな。こんなペチペチ反撃するくらいタフになったのは確かに甘やかしすぎたかも。
「大丈夫だって」
いい子にしか用意しないサンタさんからのクリスマスプレゼント、ちゃんと観音坂の分もあるんだから。その時は笑って受け取ってくれるといいな。
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